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第3回生物多様性日本アワード(2013年) グランプリ受賞団体 活動報告

津波に被災した田んぼの生態系復元力による復興
特定非営利活動法人 田んぼ

プロジェクト概要

宮城県の蕪栗沼と周辺水田地帯では、冬に水を張る「ふゆみずたんぼ」という自然農法システムを実践。2005年には自然の回復力をいかしたこの農法が評価され、蕪栗沼と周辺水田は、水田として初めてラムサール条約の登録湿地に指定された。「ふゆみずたんぼ」は伝統的な農法のひとつであるが、蕪栗沼周辺で実践されたことで、近年広く知られるものとなったのである。
NPO法人「田んぼ」は、東日本大震災の直後から、宮城県気仙沼、塩竈、南三陸、岩手県陸前高田を中心に、1, 200名を超える多様なボランティアを被災地に導入し、手作業で田んぼの復興に挑戦。自然の回復力をいかした「ふゆみずたんぼ」農法で抑塩にも成功した。また各地で、生物多様性、水質、土壌内の微生物の活性度調査などの科学的なモニタリングを実施し、現況を把握。その結果、被災した年の秋から豊かな収穫を享受することができた。先人たちのたくましい生き様を伝える「津波被災後の農地は豊かになる」という地域の言い伝えは、科学的にも証明されたのである。


先人たちが伝える津波

東日本大震災によって発生した津波は、未曾有の被害をもたらし、もうすぐ丸3年を迎えようという今でさえ、深い傷跡が残されている。この巨大津波は「千年に一度」とか、「予想すらできなかった」との修飾語と共に語られることが多いが、本当なのだろうか?津波へのおそれは、石碑、文書などとして残され、明治以降は写真としても甚大な被害が記録されている。明治三陸津波を映した写真からは、船が丘へ流され、集落が壊滅する姿が見て取れる。「津波が去った後の田んぼは豊かになる!」 津波が頻繁に襲来する三陸地域では、凄まじい自然の猛威とともに、このような言い伝えがある。まさに「禍福はあざなえる縄のごとし」で、先人たちのたくましい生き様が伝わってくる。

過去の津波と3.11による津波

被災直後、津波をかぶった農地には膨大な量の瓦礫が残されていた。どこから手をつけたら良いかもわからないほどの変貌ぶりであったが、土の中に含まれている微生物の活性度を調べてみると、津波によって運ばれ、堆積していた土の中の微生物活性度は、非常に高いことがわかった。津波で運ばれてきた土が豊かな恵みをもたらすとすれば、除塩のために表土を取り除いてしまうのは、とてももったいないことである。また、自動車や電柱などの大きな瓦礫撤去のために重機を入れると、田んぼの土の層が壊れて水が湛まらなくなる心配や、ガラス片などが地中深くに食い込んでしまい、回収できないおそれもあった。

土の力を活かすための方法としては、時間がかかったとしても人の手で行うことが大切だったのである。瓦礫の撤去は多くのボランティアの協力のもと、すべて人の手によって丁寧な取り除き作業が行われた。大きな瓦礫、小さな瓦礫、より細かな瓦礫へと作業を進め、細かなガラス片などはふるいによって分別した。こうした気の遠くなるような作業は、過去の津波では経験し得なかったことであった。明治の頃は、身の回りの全ての物が木や紙、植物繊維などからできていて、自然界で分解できないものは瀬戸物や金具類など、ごくごく限られていたからである。

「ふゆみずたんぼ」によって津波被災田んぼがよみがえる

気仙沼市大谷の田んぼでは、畦や水路の修復の後、田んぼに水を引き入れ、2011年5月下旬には水を張れるところまで作業をすすめることができた。以降、田植え、草取り、刈り取りといった農作業と並行して、田んぼに住む生きものや水質、土質について、継続的なモニタリング調査を市民の手で行っている。調査の結果、塩分がしっかりと抑えられていること、塩分の低下とともに水生生物の種類も海の生きものから淡水の生きものへと交代していくことが確認できた。夏の日照り続きの時期は、田んぼの水が減って塩分濃度が上がることもあるが、モニタリング調査によって状況を把握できていたため、水を増やして塩害を未然に抑えることもできた。

こうした活動は、2011年の宮城県気仙沼市本吉町大谷を皮切りに、塩釜市、石巻市、南三陸町、岩手県陸前高田市へと広がっている。大谷での2011年の収穫量は、2010年よりも多く、おいしいお米になり、三陸地方の先人たちが残した言い伝え通りとなった。南三陸町等の被災地で収穫したお米は、多くの人に福や幸がおとずれること、そして被災地が一日でも早く復興することをかけて「福幸米」として販売している。これは被災した生産者と消費者がつながり、復興の環が広がっていくことを願うものである。

田んぼに水を湛めて塩分を抑える方法は、震災以前から私たちが取り組んできた「ふゆみずたんぼ」による、生きものあふれる田んぼづくりの技術を活かしたものである。「ふゆみずたんぼ」によるお米の栽培は、少なくとも江戸時代には始まっていた伝統的な農法であり、近代では、国内最大級のガン類の越冬地として知られる宮城県北部の蕪栗沼周辺において、ガン類の越冬環境を拡大させる方法として行われ、広く知られるようになった。「ふゆみずたんぼ」は、一年を通じて多くの生きものを育むことはもとより、田んぼの土を肥沃にし、地下水を涵養し、さらには温室効果ガスの抑制にも貢献する等、様々なはたらきがあることがわかってきた。海外に目を転ずると、スペイン・エブロデルタでは、塩害の発生を抑える手法として、冬期に田んぼに水を湛めている。「ふゆみずたんぼ」と同じやり方が行われているのである。

高潮被害への応用

私たちが、巨大津波から農地を回復させた手法は、数十年、数百年に一度襲来する津波だけに限定された技術ではない。国内はもとより、世界各地から、高潮によって一時的に海水が流れ込む事例が増えているが、このような災害からの回復にも応用できるのである。今回の取組をより多くの方に知っていただくことが、災害からの早期の回復を果たし、生きものと共に暮らす地域づくりにつながっていくことを期待している。

DATA

団体名:
特定非営利活動法人 田んぼ
代表者:
理事長 岩渕成紀
設立:
2005年
所在地:
〒989-4302 宮城県大崎市田尻大貫字荒屋敷29-1
URL:
http://npotambo.com/

受賞歴

● 第9回日本水大賞 環境大臣賞(2007年)
● 第13回環境保全型農業推進コンクール 特別賞 (2008年)
● ESD Greater Sendai RCE 参加団体として国連大学から表彰 (2009年)
● 経団連自然保護協会及び経団連自然保護基金20周年記念として感謝状 (2010年)
● 宝の都(くに)・活性化貢献賞(大崎市から)(2011年)

(岩渕 成紀)

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