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生物多様性コラム

生物多様性資金イニシアティブ: メキシコにおける生物多様性資金調達に関する課題と機会の展望

マリアナ・ベヨット
生物多様性資金イニシアティブ(BIOFIN-Mexico) ナショナル・コーディネーター
国連開発計画コンサルタント

 

生物多様性条約(CBD)の戦略計画2011-2020および愛知目標は、今後すべての国が達成しなければならない多くの課題と世界的取り組みを提起しています。さらに、2015年9月、国連に加盟するすべての国が、持続可能な開発のためのアジェンダ2030を採択しました。これには、多岐にわたる課題に焦点を合わせた17の持続可能な開発目標(SDG)が含まれています。たとえば、目標14「海の豊かさを守ろう(Life Below Water)」と目標15「陸の豊かさも守ろう(Life on Land)」は、生態系と生物多様性の保護と持続可能な利用を訴えるものとなっています。これらの目標とそのターゲットを達成するためには、多大な国内・国際資源、そして環境保全や生物多様性に関する政策やプログラムの一貫性が必要です。生物多様性条約の戦略計画を実施するために必要な追加投資は、全世界で年間1300億米ドルから4400億米ドルになると推定されています(High-Level Panel (2014). Resourcing the Aichi Biodiversity Targets: An Assessment of Benefits, Investments and Resource needs for Implementing the Strategic Plan for Biodiversity 2011-2020. Second Report of the High-Level Panel on Global Assessment of Resources for Implementing the Strategic Plan for Biodiversity 2011-2020. Montreal, Canada)。

 

メキシコのCBD第5回国別報告書2014年版は、愛知目標に向けて大幅な前進を示しており、なかでも、保護地域(目標11)、生物多様性に関する知識(目標19)、生物多様性戦略(目標17)、自然資源の利用(目標4)での進歩が顕著です。その一方で、報告書には、いまなお大幅な不備があり、国家レベルでの新たなコミットメントと行動が必要な目標について、検討が加えられています。また、これらの取り組みのためには、生産部門と国家開発アジェンダにおいて生物多様性を主流化することが求められています。新たなSDGが、このような目標を達成する機会をもたらすことは間違いありません。

 

 

課題

 

メキシコにおいてさらなる前進が必要とされる目標のひとつは、目標20であると言われています。目標20では、CBD締約国が、現行の投資と支出額に照らして、生物多様性の管理・保全のためのリソースを大幅に増やすために、あらゆる資金源を動員するべきだという提言がなされています。メキシコのCBD第5回国別報告書は、生物多様性に対する国の公共支出にも、国際協力による資金提供にも前向きな傾向が見られると結論付けていますが、生物多様性に関する支出は体系的に会計処理されていないのが現状です。

 

2016年半ばに発表される新たな生物多様性国家戦略・行動計画(NBSAP)を実施するためには、生物多様性のための投資を増やすとともに、財源のフローを検討する必要があります。

 

公共および民間のリソースが限られていることを考慮すると、以下に述べる項目の実施は不可欠です:

  1. a:コストを推定し、NBSAP実施の優先順位を決める
  2. b:生物多様性の保全および持続可能な利用のために追加資源を組み入れる機会および選択肢を特定する
  3. c:生物多様性に悪影響を及ぼす財源のフローを削減し、利益をもたらすものを最適化する

 

主要課題のひとつは、生物多様性に関する資金供給に必要な資金と現況とのギャップを、国家レベルで推定することにあります。メキシコは、BIOFINの成果に基づいて、愛知目標の達成、特にNBSAPの実施に必要な資金ニーズを見積もることになっており、このことは、生物多様性管理への投資を強化する機会を特定し、包括的なリソース動員戦略を策定するうえで不可欠なものとなるでしょう。

 

メキシコは、CBDの保護地域作業計画(PoWPA)を受け、保護区にかかわる資金ギャップの推定において主導的な役割を果たしています。国家自然保護区委員会(CONANP)では、国家自然保護区(Protected Area National System)の保全および管理にかかわる資金ギャップを推定する広範囲な作業を行っています。現時点でメキシコには177の国家自然保護区があり、総面積は約2570万ヘクタールにまで及びます(81%が陸地、18.9%が海洋)。CONANPは、資金ギャップを年間約3400万米ドルと推定していますが、これは現行の予算より50%多い金額です。さらにメキシコでは、保護地域の新設に関するCBD愛知目標11を2018年までに達成することを約束しています。この目標の達成のためには、陸地面積・海洋面積を合わせて690.1万ヘクタールが新たな対象となるため、主に年度予算から年間6050万米ドルの追加資金が必要となります (CONANP, 2016)。

 

現行の投資については、環境保護支出の総額はGDPの1%を占めると推定されます。しかし、生物多様性および景観の保全のために直接使われているのはそのうち8%に過ぎません(INEGI, 2015)。また、農業、林業、漁業、観光業、農村開発など、生物多様性への影響に最も関連性の深い分野についての政府部門による支出配分はわかっていません。

 

二国間および多国間の国際協力など、海外資金による様々なリソースについては、近年増加が見られます。全世界では、政府開発援助(ODA)による生物多様性への資金供給は過去10年間に増加し、年間56億米ドルに達しています。これは、ODA総額の4.3%に相当します。メキシコに対する生物多様性関連のODAも2011年から2013年までの間に増加し、OECD開発援助委員会が報告した情報によると5170万米ドルに達したと言われています。

 

地球環境ファシリティ(GEF)だけでも、1992年から現在に至るまで、生物多様性プロジェクトのためにメキシコに1億5800万米ドルを超える資金を提供しており、さらに5億5000万米ドルを超える政府、民間部門、市民社会による共同出資が行われています。これらのプロジェクトの多くは、地域社会の参加を得て、生物多様性の保全・管理、そして持続可能な開発の成功例となっています。

 

 

機会: BIOFINのアプローチ

 

生物多様性のためにリソースを動員しようという国家レベルでの行動を支援するため、2015年、メキシコは国連開発計画が運営する生物多様性資金イニシアティブ(BIOFIN)に参加しました。このイニシアティブは、環境天然資源省(SEMARNAT)、財務公債省(SCHP)、国家森林委員会(CONAFOR)、国家自然保護区委員会(CONANP)、国家生物多様性の知識および利用委員会(National Commission for the Knowledge and Use of Biodiversity)(CONABIO)、および国家統計チリ情報局(INEGI)による支援を受けています。BIOFINイニシアティブの目的は、生物多様性の保全および持続可能な利用と生態系管理のためのリソースを増やし、最適化し、調整する機会を特定することにあります。

 

BIOFINの手法は、良い影響であれ悪い影響であれ、生物多様性および生態系サービスに影響を及ぼしている現行の政策や制度的枠組みを分析し、過去および現在の公共支出と民間支出を数値化して、ベースラインを推定するというものです。その目的は、これまで特定されていなかった生物多様性にかかわる投資や予算を追跡しやすくすることにあります。

 

関連する部門において、これまでにメキシコで支出の追跡が行われた唯一の例は気候変動資金に関するものだけです。これは、財務省が発行する連邦政府歳出予算年次報告書の付録としてまとめられ、政府だけでなく一般にも公開されています。

 

政策・制度の検討に基づいて、BIOFINメキシコは、生物多様性に関連する主要な公共政策を特定しました。今後は、この情報とプログラム予算を照合することにより、政府による公共支出の総額を推定していきます。さらに、この情報に基づき、BIOFINは関連機関とともに、NBSAP目標や他の重点戦略および行動を達成するために必要な投資を決定します。その結果によって、生物多様性にかかわる資金ギャップを判断する情報が得られるようになるのです。

 

BIOFINは、政府や民間組織と協力し、保存、持続可能な利用、修復に向けた投資を増やすことを目的に、リソースを動員し、現行の支出を最適化し、資金戦略を決定します。

 

現在に至るまでの根拠を検証すれば、官民いずれの視点からも、生物多様性の価値は生産部門では認識されていないということが明らかです。保全に向けた投資を増やすためには、政策決定者向けに、生物多様性がもたらす開発機会に関するエビデンス・ベースの<根拠に基づいた>データをまとめ、適切に伝えることが不可欠です。BIOFINでは、公共政策や財源に関する情報を整理し、生物多様性とその生態系サービスの経済価値評価に重点を置く他のイニシアティブと協力することで、生物多様性の主流化を支援しています。 生物多様性への投資こそ、未来への投資なのです。

 

「保全にリソースが伴わなければ、それはただの会話に過ぎない!
(メキシコ自然保護地域委員会元委員長の発言より個人的に引用)

 

 

免責事項:この記事において表明された見解および意見は、執筆者のものであり、必ずしもいずれかの機関の公式の方針または立場を反映するものではない。

 

 

マリアナ・ベヨット氏 プロフィール

 

マリアナ・ベヨット氏は、現在、国連開発計画のコンサルタントとして、「メキシコ生物多様性資金イニシアティブ」のコーディネーターを務めている。ベヨット氏は、英国サセックス大学において学士号(国際研究)、修士号(環境政策・開発)を取得。生物多様性保全、自然保護区、生態系サービス、資金調達、生態系に基づく適応策を中心に、広く生物多様性分野において15年以上にわたる経験を有している。

 

ベヨット氏は、メキシコ政府機関において様々な役職を歴任。前職ではメキシコ自然保護区委員会にて機関開発・アウトリーチ部部長を務めた。また2001年からは、生物多様性条約メキシコ代表団の一員として職責を果たしている。生物多様性条約 /生物多様性に関する資源動員 第2次ハイレベル・パネル メンバーを経て、現在は国際自然保護連合(IUCN)世界保護地域委員会メンバーを務める。

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