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Q&A Biodiversity and Us

富士山を次世代に引き継ぐために

2013年6月22日、カンボジアの首都プノンペンでユネスコ世界遺産委員会が開かれ、富士山の世界文化遺産登録が決定しました。日本が世界遺産条約を批准したのは1992年で、富士山の登録はその当時から期待されていましたが、「過去にゴミの不法投棄をはじめとする環境問題が原因で「世界自然遺産」としての登録をあきらめざるを得なかった」とも言われています。富士山の自然と文化を次世代に引き継ぐために、私たちひとりひとりはこれからどのように取り組めばいいのでしょうか。

この分野の研究を行ってきた筑波大学の吉田正人先生に教えて頂きました。

回答者:吉田 正人
筑波大学大学院 人間総合科学研究科世界遺産専攻 教授、国際自然保護連合日本委員会 会長

Q1

富士山の生態系はどのような動植物によって形成されているのでしょうか。

A

富士山は、ユーラシア、北米、太平洋、フィリピン海の4つのプレートが衝突する位置に誕生した成層火山であり、富士山の下には古富士山、小御岳など複数の火山が積み重なっています。また1150年前の貞観噴火では溶岩流、300年前の宝永噴火では火山灰を噴出するなど、ユニークな噴火をする火山でもあります。溶岩流によって作られた青木ヶ原樹海や溶岩洞窟は、森林鳥類や洞穴性生物の生息地となっていますが、火山灰によって作られた須走などは、オンタデ、フジアザミ、フジハタザオなどの植物が見られるものの、噴火後それほど時間が経っていないため、生物多様性という点からは動植物が豊富だとはいえないのです。

Q2

「富士山が世界自然遺産としての登録を断念せざるを得なかった背景には、ゴミの不法投棄等の環境問題があった」といった報道もありますが、そういったことが原因で自然遺産としての指定がされなかったのでしょうか。

A

「富士山が自然遺産になれなかったのはゴミのせいです」というのは、富士山をきれいにするキャンペーンとしては理解できますが、正確な理由ではありません。自然遺産になるには、(1)自然美、(2)地形地質、(3)生態系、(4)生物多様性のいずれかの基準を満たす他、人為の影響を受けずに生態系が残されているなどの完全性の基準に合格しなければなりません。(1)自然美、(2)地形地質という基準で富士山を見ると、富士山はとても美しい成層火山ですが、1994年に自然遺産登録を検討した頃にはすでにニュージーランドのトンガリロ山を始め多くの火山が世界遺産リストに掲載されていました。(3)生態系、(4)生物多様性で評価するには、青木ヶ原樹海を始めとして山麓の生態系を含める必要があります。しかし、人為の影響を受けていないという完全性の基準に合格するには、富士山麓はあまりに開発が進んでいます。ゴミやトイレなどの問題は人間が努力すれば解決できますが、自然遺産の登録基準と完全性の基準を同時に満たすには、私たちは富士山に手をつけすぎたと言わざるを得ません。

Q3

富士山は「文化遺産」として世界遺産登録を受けました。富士山の自然と文化を次世代に引き継いでいくために、私たち一人一人はどのようなことをこころがけていくべきでしょうか。

A

富士山が「世界文化遺産」に登録されるにあたって、世界遺産委員会では数多くの勧告が採択されました。その中には、「登山道の環境収容力を研究し、それに基づき来訪者管理戦略を策定する」といった、国立公園管理に関する勧告も含まれています。これに応えるには、「富士山を完全予約制登山の山とする」以外にはないと私は思っています。山梨・静岡両県では、登山者に環境保全協力金を依頼していますが、ホームページから登山前に支払うこともできます。現段階では、登山口で払う人が多いのですが、混雑防止のためにも、事前に払う人が増えれば予約制に少しでも近づけることができます。ゴミの持ち帰りや携帯トイレの持参の他、富士山の混雑を防ぐためにも、山開き直後の土日など混雑日を避けるとか、マイカー規制に協力する、5合目から登山するのではなく、下山して山麓の自然を楽しむなど多様な楽しみ方をすることも、富士山の環境保全に協力することにつながります。

吉田先生、どうもありがとうございました。



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