English

Q&A Biodiversity and Us

うな丼の未来は?

2015年の夏の土用の丑の日は 7月24日と8月5日。土用の丑の日に鰻を食べることは日本人にとって恒例となっています。しかし近年、稚魚(シラスウナギ)の不漁とそれに伴う値上がりが盛んに報じられるようになりました。
2013年2月、ニホンウナギは環境省版レッドリストの絶滅危惧IB類に指定されました。続いて2014年6月には、国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを絶滅危惧種に指定。今後、絶滅の恐れがある野生の動植物を保護するため国際取引を規制するワシントン条約の対象になれば、ウナギの稚魚も成魚・加工品も輸入依存度が高い日本の食生活や関連産業への影響は避けられないといわれています。
私達はこれからも、うな丼を食べることができるのでしょうか。

この分野の研究を行ってきた中央大学の海部健三先生に教えて頂きました。

s
回答者:海部 健三
中央大学法学部 助教、IUCNウナギ専門家サブグループ メンバー

Q1

ウナギはなぜ減少したのですか?

A

海洋環境の変動、過剰な漁獲、河川や沿岸域など成育場の環境変化が主要な要因と考えられています。しかし、その相対的な影響の強さや、三つの要因の相互関係については、ほとんど解明されていません。

(1)海洋環境の変動:ニホンウナギはマリアナ諸島の北西海域で産卵し、稚魚は海流に流されて東アジアにたどりつきます。このため、海洋環境に変化が生じると、稚魚の生残に大きな影響が出ます。

(2)過剰な漁獲:現在の技術では、ウナギを人工的に産卵、孵化させることは難しいため、ウナギの養殖では、河川に侵入するシラスウナギを捕え、養殖池で育てています。また、生き残って河川や沿岸域で大きく育ったウナギも、「天然ウナギ」として珍重され、やはり漁業の対象とされます。

(3)成育場の環境変化:シラスウナギ期を生き延びた個体は、東アジアの河川や河口近くの沿岸域で成長します。しかし、河川や沿岸域は、人間の活動の影響を受け、その姿を大きく変えてしまいました。中国、韓国、台湾、日本の16の河川を調べた最近の研究では、ニホンウナギの有効な生息域の76.8%が、この40年間で失われたと報告されており、生息場の環境変化は本種の減少に強く関係していると考えられます。

Q2

人工的にウナギに子どもを産ませることはなぜ難しいのですか?

A

ニホンウナギの産卵場が外洋にあることが、最も大きな理由です。
 本来外洋で成長するニホンウナギの稚魚が健康に育つ環境を、人工的に創成することは、非常に難しいことです。研究者や技術者の努力によって、人工種苗(人工的に産卵させた卵から育ったシラスウナギ)の商業的利用が現実のものになる可能性は高まっていると言われていますが、それが何年、何十年先のことになるのかについて、明確なことは分かりません。
 人工種苗生産技術は、産業に対する多大な貢献ではあっても、ニホンウナギの窮状を救うことには直結しないでしょう。先に述べた三つの減少要因のうち、人工種苗生産の成功は、過剰な漁獲、そのうちのシラスウナギ採捕に対して効果を持つのみです。さらに言えば、人工種苗生産技術が現実のものになったとしても、飼育下で作り出されたシラスウナギが天然のものより安くなるとは考えられません。シラスウナギ取引価格は、現在キロあたり200万円以上になることも珍しくありませんが、20年前にはその十分の一程度でした。シラスウナギの採捕は容易で、ほとんどコストがかからないため、いくらでも価格を下げることが可能です。その一方で、人工種苗の生産コストを削減するためには、技術的・設備的な改善が必要になります。人工種苗は、あくまでも天然のシラスウナギの不足分を補うものであり、例えその技術が商業化されたとしても、人間が責任を持ってシラスウナギの漁業管理を進めることが不可欠です。

Q3

ウナギの資源回復のために必要とされる対策とは?

A

シラスウナギ、天然ウナギを含めた漁業管理と、河川や沿岸域など成育場環境の改善です。
ニホンウナギの減少に関与しているとされる3つの要因のうち、人間が直接管理できるのが漁業と、河川や沿岸域の環境です。漁業については、適切な漁獲量の上限を設定し、遵守することが重要です。適切な漁獲量の制限ができれば、ウナギを扱う人間は、胸を張って商売をすることができます。消費者も、安心して食べることができるでしょう。
河川や沿岸域など成育場の環境回復は、より根の深い、大きな問題です。大きく変化した河川と沿岸の環境を、ニホンウナギが健全な個体群を維持できるまで回復させるには、長い時間と多大な努力が必要とされるでしょう。加えて、これらの環境変化はニホンウナギにのみ影響するのではなく、水辺の生態系全体の健全性を悪化させているはずです。ニホンウナギのためだけでなく、あらゆる水辺の生き物のためにも、早急に対策を打つ必要があります。
対策を考えていくうえでは、幅広い合意形成を目指すことが重要です。科学の力では、ニホンウナギの問題について、例えば、漁獲量を何割減少させれば個体数が増加に転じるのか、正確な数値を示すことはできません。したがって、どのような対策をとるべきか、その意思決定は社会の合意によって正当化されるほかないのです。日本の中だけでなく、ニホンウナギの分布域である東アジアの国々との話し合いを進めることも重要です。適切に議論を進めていけば、ウナギの問題は、東アジアの友好と恊働を促進するチャンスのひとつとなるはずです。資源の持続的利用、環境の保全と回復、近隣諸国との恊働。多様な要素を含んだウナギの問題は、持続的な社会をどのように作り出していくのか、という問題であると考えています。

海部先生、どうもありがとうございました。



Kaifu Lab 中央大学法学部/ウナギ保全研究ユニット ホームページ

English