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Q&A Biodiversity and Us

放置竹林×アート

筍、竹細工、尺八、竹刀、「竹取物語」…竹は日本人の文化になじみ深い木のひとつであり、竹材は生活の中で様々に利用されてきました。しかし近年、代替資材の普及や担い手不足等が要因で放置竹林が拡がり、それに伴う森林の荒廃が問題となっています。竹は繁殖力が旺盛なため、竹が繁茂すると竹よりも樹高の低い樹種が育ちにくくなってしまいます。するとそれまで他の樹種を食べ、そこで営巣していた鳥類や昆虫類の種数も減少し、生物多様性の低下を招くと言われています。また、竹は地中深くまで根が伸びないため、一般の森林に比べて保水能力が低く、土砂災害等、防災面での問題も指摘されています。
こうした放置竹林の問題に取り組むには、生活や文化の中の竹について、あらためて考えてみることも大切ではないでしょうか。

放置竹林の問題にアート・プロジェクトで取り組まれている華道家・建築造形家、辻雄貴空間研究所 代表の辻 雄貴 様に教えていただきました。

回答者:辻 雄貴
華道家・建築造形家、辻雄貴空間研究所 代表

Q1

竹は日本の生活や文化の中で、どのような位置づけにあるのでしょうか。

A

日本では主に「モウソウチク」「マダケ」「ハチク」が繁殖しています。現在、薩摩藩が食用を目的として取り入れたモウソウチクが多く繁茂しており、放置竹林の原因になっていると言われています。マダケはかぐや姫でイメージされる竹、ハチクはタケノコが柔らかく美味しい竹と言われています。
日本において竹は、生活用品・食用にとどまらず、文化においても重要な位置を占めており、能の世界では「永遠の命」を表しています。たとえば歌人藤原定家氏の文献の中で「都の仙洞御所の庭の礎石に竹を立て、松の葉で屋根を葺いて能を演じた」と記されているように、竹、植物をしつらえて空間を作り出すことは、日本において昔から行われていたのだと思います。

Q2

放置竹林と辻さんの目指すアートは、どう関係しているのですか?

A

2013年、フランス シャンパーニュ地方にあるフェール城で能を上演する機会があり、「フェール城桜協会」から能公演の空間演出のオファーを受けたことが放置竹林問題を考えるきっかけになりました。竹は建築といけばなの間にある植物なので、空間演出にしなやかな曲線を創作出来るハチク(淡竹)を使ったパビリオンを作りたいと考え、その材料調達のためにフィールドワークをしていたのです。その際に、出身地静岡の放置竹林の問題を知りました。この問題を自然の恵みという視点からみたとき、放置竹林がアートに結び付いたのです。そこで、経済的価値が低く切っても放置するしかない竹に、価値を与えアートに変えるシステムを作れないかと考えました。

Q3

放置竹林問題にアートは貢献できますか?

A

私の手がける「循環型アート」では、作品使用のために竹を間伐し、竹林に光を入れることで、下草や他の樹木の生長を助けています。さらに、能公演の空間演出に使用した竹を竹粉砕機で細かく裁断し、肥料化し、自然に還しています。竹には多くの炭素が含まれているので、袋に入れて流通させることができれば、農業用肥料としての利用も可能になります(炭素循環農法)。
都会に住んでいると放置竹林の問題に対する意識は低くなってしまいます。また、東京でいけばなをしていると、花屋さんで買った花を作品にしても、その後は捨てざるをえません。ですが、放置竹林の竹を作品にし、その後、肥料にすれば、地域の人たちへの恩返しにもなります。さらに、フィールドワークを現地の学生と一緒にやることで、放置竹林問題への意識を共有し、次代に引き継ぐことができます。竹を作品に使用し後に肥料化するというこの「循環型アート」は自然への畏敬の念から生まれました。

アートの役割は、自然と対峙し、生命力を引き出すことにあると思っています。自然とヒトとをアートが繋ぎ、その関係性を再発見する。アートはこの点でも環境問題に貢献できると思います。

Q4

日本の文化・生活という視点から、私たちは自然の接し方についてどう考えることができるでしょうか?

A

能の世界では、笛=風、小鼓=水、大鼓=火、太鼓=大地を表していて、囃子方の人たちは音で自然を作り視覚化します。鼓は桜の木と馬の革でできていて、物理的にも感覚的にも自然に呼応しています。水の音を出すため小鼓には湿気が必要ですし、火の音を出すために大鼓は火鉢であぶっておく必要があります。また、自然の中で能を上演すると、鼓の音にシカが応えてくることもあります。同様に、囃子方の掛け声も、自然を模しているのではないでしょうか。いけばなと能は視覚的にも根源的にも、芳醇な世界に繋がっていて、どちらも自然や植物からインスピレーションを得ています。

本来「芸能」は自然を素材にした「生活芸術」であり誰もが楽しめるものです。私達ももっと感覚的に文化に親しめると思いますし、そうすることで自然と文化とを多重的に感じることができるのではないでしょうか。

辻様、どうもありがとうございました。

(Photographs by Yuki Tsuji)

 

Art Works by Yuki Tsuji (PDF)
「シャクジ能」プロジェクトについて(PDF)
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