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Q&A Biodiversity and Us

おいしくてヘルシーな食事のために

医食同源」という言葉があります。これは、日頃からバランスの取れた美味しい食事をとることで病気を予防し、治療しようとする考え方だと言われています。そのためには、様々な食べ物をバランスよく食べることが大切であり、様々なお食事をいただくためには、多様な食材を用意し素材にあった料理法を知ることが必要になります。また、様々な食材を得るためには、土壌や水が健康で豊かでなければなりません。私たちが食事をするということについて、こうして遡って考えていくと、食べること、健康でいることと、生物多様性の関わりとが見えてきます。
「食べる」ことを楽しみ「健康」でいるために、私たちは生物多様性についてどう考えていけばいいでしょうか。

おいしくてヘルシーな食事と生物多様性の関係について、アナウンサー、気象予報士、野菜ソムリエの田辺 希様に教えていただきました。

回答者:田辺 希
アナウンサー、気象予報士、野菜ソムリエ

Q1

「旬のもの」を食べること、「多品目」を食べることは、なぜ健康にいいのですか?

A

旬のものは、栄養もうま味も満点です。旬の野菜は、季節ごとに変化する自然のリズムに対応できるような体作りをしてくれます。春になると、フキノトウなどの苦みの効いた山菜が出てきます。「春の料理には苦みを盛れ」という言葉があるように、寒い冬になまった体を野菜の苦みが目覚めさせてくれるのです。暑い夏は、太陽の光をたっぷり浴びて育つトマトやピーマンなどのビタミン豊富な野菜が旬を迎えます。また水分の多いキュウリやスイカなどのウリ類の野菜は、体の熱を冷ましてくれます。秋は、体を温める根菜類の収穫が増えます。サツマイモなどの根菜類を食べて、冬の寒さに備えることができます。冬は、鍋物に欠かせない白菜や春菊もおいしくなり、冬場の大切なビタミン源になっています。また身土不二という言葉があります。身体と環境は切り離せないという意味です。自分が住む地域の気候風土に合った「旬の地物」を食べることは、その環境に適応できるような体作りをすることにつながっているのです。

Q2

風土に合った野菜といえば「伝統野菜」と言われていますが、「伝統野菜」には、どのようなものがありますか?

A

伝統野菜は、その地域の気候風土に適応して生きてきた野菜です。江戸時代に、現在の長野県野沢温泉村の僧侶が、大阪の伝統野菜・天王寺蕪の種を持ち帰り長野で育てると、葉と茎だけが大きく育ち、長野の伝統野菜・野沢菜が誕生したという言い伝えがあります。長野の厳しい冬の寒さや雪深い風土に適応して、蕪が蕪菜になり生き抜いてきたと考えると、伝統野菜の生命力を感じます。そのほか徳川五代将軍の綱吉が栽培を命じたという練馬大根や神奈川県三浦半島の温暖な気候で育つ三浦大根など、同じ大根でも地域によって味も形も全く異なります。
伝統野菜は、自然のリズムで生きています。そのため地域も季節も限定的。環境に適応して生きるので、化学肥料への依存度が低く、土壌の保護にもつながります。その畑では、様々な生きものが育ち多様性が保全されるのです。

写真左:野沢菜畑(撮影 田辺 希)
写真右:野沢菜(撮影 田辺 希)

 

Q3

私たちがおいしくてヘルシーな食事を楽しみながら生物多様性を守っていくには、どうすればいいでしょうか。

A

自然は、自ら然らしめると書きます。人間の力が加えられるのではなく、自らそうなっていくもの。それが自然です。自然に生きているものの命を、私たち人間はいただいて生きています。自然の営みの中で、私たちは生かされていることを改めて考えることが大切なのではないでしょうか。
厳しい自然の中で生き抜いてきたものには、おいしいというひと言では表現できない大地の力強いエネルギーを感じます。たとえば、純粋なH2Oの水と山の湧き水の味は全く異なります。自然の湧き水は、土壌の微生物による浄化作用はもちろん、科学では完全に解明できないような多様な要素が加わり、味わい深いおいしさが生まれているのです。ブナの森を歩くと、ふかふかした感触に包まれます。栄養豊富な腐葉土に覆われているからです。腐葉土は、小さな虫や微生物が落ち葉を分解して作られます。そこに雨や雪がしみこみ、時間をかけて浄化され、ミネラルなどの栄養を蓄えおいしい湧き水になります。私たちは、自然界の様々な生きものたちから多くの恵みをいただき生きています。自然の営みの中に生きるものとして、自然のリズムを乱すことなくその恵みを味わい、体の健康も地球の健康も維持したいものです。
南北に長い日本列島には、四季があります。四季折々の自然のリズムに合った食文化が、各地に根付いています。郷土料理には、各地域の気象条件の中で私たちがその季節を健康に過ごせるような知恵や栄養が詰まっています。その地域ならではの旬のものが使われ、春夏秋冬それぞれの季節の訪れを知らせてくれます。旬を味わうことは、自然のいのちを感じる心の豊かさを育むことでもあります。そうした多様な食文化を尊重することが、生物多様性を守ることにつながるのではないでしょうか。

                                                     

田辺様、どうもありがとうございました。

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