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おもてなし

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2020年の夏季オリンピック・パラリンピックが、東京で開催されることになりました。開催国決定当日の最終プレゼンテーションの中で、滝川クリステルさんが使った「おもてなし」という言葉が、内外で話題を呼びました。

 

 もてなしは、「持て成し」と書きます。源氏物語の末摘花には「いとわろかりしかたちざまなれど もてなしに隠されて」とあり、身のこなしや物腰、たしなみを意味する言葉として使われていました。

 

 接頭語の「お」がついて「おもてなし」となり、現在の意味はホスピタリティ(Hospitality)、レセプション(Reception)、あるいはエンターテインメント(Entertainment)と訳されることもあるようです。

 

 特に接客業やサービス業の世界では、おもてなしは重要なキーワードとされています。例えば老舗と呼ばれる旅館では、お客様に出す料理の食材や食器類、部屋の設えから女将の着物に至るまで、「季節感」というものを大切にします。それは四季を愛でる日本人の、自然に対する敬意から来るものであり、さりげなく飾った一輪挿しからも季節の訪れを感じてもらうことが、洗練されたおもてなしの形だからです。

 

 滝川さんは、おもてなしの心を「見返りを求めない気持ち」とも表現しましたが、それはむしろキリスト教圏の思想にあるボランティア(Volunteer)が近いと思われます。

 

 見返りを求めることは、必ずしも悪いこととは言えません。「情けは人のためならず」という諺は、日本人の知恵やバランス感覚を表すものですし、商売となればなおさらです。ただし、すぐに見返りを求めるのか、見返りがなくても構わないと思うのかでは、その行動や形はおのずと変わってきます。

 

 サッカーファンには知られたエピソードですが、紹介しておきます。日本サッカーの発展に多大な貢献をした元日本代表監督のイビチャ・オシムさんは、1964年の東京オリンピックにユーゴスラビア代表選手として初来日した際、自転車を無料で貸してもらったこと、農家の人から梨をもらったことをずっと忘れなかったそうです。自転車を貸した人も梨をあげた人も、遠い異国から来たサッカー選手に喜んでもらいたいという一心だったのでしょうが、その小さな出来事が、のちにオシムさんと日本を結びつけたのです。

 

 人の心の琴線に触れる形は、さまざまです。見返りを求めるかどうかは別として、自分自身が目の前の人を少しでも喜ばせたい、愉しませたいと思えるかどうか──2020年まであと7年、この機会に、おもてなしの「心」と「形」について、じっくりと考えてみたいものです。

 

 (鈴木健司)

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