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合掌造り

Gasshozukuri

掌を合わせた時にできる三角の腕の形状に由来する合掌造りの家。合掌造りとは、丸太を組んだ急勾配の茅葺き切妻屋根をもつ家屋のことです。岐阜県北西部、急峻な山々に囲まれた白川村。村の面積のおよそ96%を山林が占め、山間を縫うように流れる庄川上流域のわずかな平坦地に、白川郷と呼ばれる合掌造りの集落が点在しています。同じように庄川中流域にあたる富山県の五箇山にも合掌造りの集落が残っています。これらの地域は世界的にみても有数な豪雪地帯で、大屋根の合掌造りは、過酷な雪下ろし作業を軽減するために生み出された日本特有の建築様式です。

 

合掌造りの特長は豪雪対策だけではなく、大きな小屋裏に2層・3層の広い空間が確保できるという利点もあります。昔からこの地域一帯は耕作地が少ないため農業の収入はほとんどなく、自給分が限度の状況で、山村での生活の糧となったのが養蚕業でした。養蚕とは蚕(カイコ)を飼育してその繭(まゆ)から生糸をとり、シルクを作ることです。蚕はカイコ蛾の幼虫で、野生には生息できず、人間の管理なしでは生育することができない生き物です。そのため、室温が保てる小屋裏を作業場として利用できる合掌造りが最も適した建物だったと言えましょう。

 

合掌造りの建物は、屋根の妻が南北を向いています。これは屋根にまんべんなく日が当たるようにして茅葺き屋根の乾燥を促進します。また、地形上南北それぞれの方向から強い風が吹くので、夏場は小屋裏の窓を開けて風を通し、冬場は風の当たる面積を少なくするためでもあります。それは生活の快適さを保つと同時に蚕の生育にも役立っているのです。さらに、釘を一本も使わずに建てる合掌造りは、木・縄・茅という建築資材の特性と、日常の生活習慣によってその耐久性が保たれていました。まず、カビの原因となる湿気に対しては、茅葺き屋根が風通しを良くし、屋内の湿度を適度にコントロール。そして、住人が暖をとり食事を作るための囲炉裏の煙が、小屋裏をいぶすことによって虫の害を防ぎ、それが建築資材の補強にも功を奏していたというわけです。

 

日本の建築様式の一つであり、家内工業に適した伝統的な住居形式で独特の景観をなす合掌造りの集落。そこには、厳しい気象条件と向き合い、自然のあらゆる生き物と共生しながら衣・食・住の全てを形成するために、持てる知恵と技をつぎ込んだ先人たちの住宅アイデアが見えてきます。こうした貴重な文化遺産を大事に守ろうとする機運が、1950年頃から近隣住民を中心に年々高まり、1995年には「白川郷・五箇山の合掌造り集落」としてユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されました。

 

合掌造りの集落は、世界遺産登録以前から観光地として知られていましたが、登録以降はさらに観光地化に拍車がかかり、歴史ある景観に惹かれて毎年国内外から大勢の観光客が訪れています。しかし、その一方で本来の素朴さや日本の原風景であることの魅力が低下するのではないかという危惧も生まれているようです。美しい景観が守られるために、訪れる人々の心あるマナーを祈るばかりです。

 

(干場由利)

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