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Sumi森林からの恵みを、暮らしに取り入れてきた日本人。その一つが、木や竹からつくられる炭です。

 

炭と日本人の歴史は非常に長く、古くは数十万年前の遺跡から、木材を燃やした後に残る「消し炭」が発見されています。その炭が、暖をとるために広く用いられるようになったのは、奈良時代。平安時代には、こんな和歌が詠まれています。

 

 

 

 「うれしくも 友となりつつ うづみ火の 明け行く空に なほ残りける」

(公衡集)


うづみ火とは、炉や火鉢などの灰のなかに埋めた炭火のこと。明け方になっても、まだ燃え残っている炭の火は、友として楽しく過ごした一晩を、そっと見守ってくれていたのでしょう。

 

自然界の寒暖に身を委ねて生きるしかなかった古の人たちにとって、長く、やわらかな暖かさを保つ炭の火は、さぞかし頼もしい存在だったことでしょう。

 

炭焼きの技術を中国から日本に伝えたのは、弘法大師(空海)と言われています。仏教の教えと共に各地にもたらされた炭焼きの先端技術は、やがて各地域の木の特性などに合わせて、進化を遂げてゆきました。原木として、クヌギミズナラコナラカシといった木々のほか、竹が活用されています。

 

室町時代の「茶の湯」の隆盛によって、質の高い炭への需要が高まり、安土桃山時代には、その断面が菊の花のように見えることから「菊炭」とも呼ばれた湯炭が、千利休らにより好まれて用いられるようになりました。

 

暖房として、そして文化を支えるものとして広く日本人に親しまれてきた炭。

 

しかし、第二次世界大戦の後、ガスや石油、電気の普及に伴い炭の需要は減り、今では林業に携わる人や炭焼きの技術を持つ職人の数は、非常に少なくなっています。

 

一方で、昔のように、自然と共生する里山の暮らしを未来につないでいきたいと「炭」に着目して活動を始めた若い世代の人たちがいます。荒れた山を間伐し、その材を炭として活用することで、地域の活性化を目指そうというのです。石川県能登半島、愛媛県内子町、大阪府能勢町など、全国の農村地帯に生まれつつある、この新たな息吹。それは炭の灯火のように、それぞれは小さくとも、力強く、確かな熱を放っています。

 

炭にはほかにも、空気や水を浄化したり、香りを鎮めるといった、清めや癒しの効果があると言われています。

 

最近では、ミネラルを得たり、体内の不要物を排出するといった健康向上機能や、石鹸や化粧品への活用、部屋のインテリアとしての利用など、時代のニーズに合わせた新たな需要も生みだしている、炭。

 

火によって昇華され、炭として人々の暮らしを支え、また大地へと還ってゆく。
そんな炭のいのちのものがたりは、現代に生きる私たちに、生命を未来へとつなぐ新たな知恵を、思い起こさせてくれているのかもしれません。

 

(今井麻希子)

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