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歴代受賞者

2010年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者

グレッチェン・C・デイリー

グレッチェン・C・デイリー
米国
スタンフォード大学 教授

受賞のことば

公益財団法人イオン環境財団理事長 岡田卓也様、The MIDORI Prize for Biodiversity審査委員の皆様、本賞のパートナーでいらっしゃる、環境省・生物多様性条約事務局・国連大学の皆様-そして本日ご臨席の皆様にご挨拶申し上げます。

この度、私がThe MIDORI Prizeを受賞させていただくこととなり大変光栄に存じます。また、生物多様性の保全分野における卓抜したリーダーの皆様方とこの栄誉を共にすることができ、誠に幸甚です。また私は、これまでの人生において私を指導して下さった方々、私に協力して下さった方々と、この賞の栄誉を共にできることを大変嬉しく思います。

また、このイベント、および生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)にご参加下さいました皆様に感謝申し上げます。こうした重要な会議を主催なさる活力にあふれた日本のリーダーシップは、生物多様性の保全に対し世界各国の投資を促すものであり、私は生物多様性と人類の行く末に関わる米国の政治分野のリーダーの方々が、世界に向けて良き事例を示し、広めてくださることに期待しております。

また、人類と自然との調和を求めて、皆様ひとりひとりが担っておられる役割に大いに感謝しております。

「みどり」には美しいイメージがあります-さらなる植樹活動を行うことで、木々は着々と生長し、根を張り、人々と文化に対し、自然へと目を向けさせる-というイメージです。我々の植樹活動は、アイデアを実行に移し、自然の多くの価値-自然を失うというコスト-に着目させ、また、そうした自然の価値を、政府・企業・個人の政策や意思決定に組み入れていくために、広範にわたる社会参加を求めるものです。現在の取組は、成功モデルを再現し、そのスケールを変え、科学と政治の信頼性と持続性を確固たるものにする政策基盤を発展させていくことを目指しています。

私達はこれからもこうした取組を続けていきます-木を植えながら!

プロフィール

スタンフォード大学生物科学学部にて学際的な研究を行っているデイリー博士(1964年生まれ)は、これまで社会・経済活動によって破壊されてきた環境に対して、経済的な価値を見いだし、「生態系サービス」という概念からその保全に貢献してきた。デイリー博士は生物多様性とその持続可能な利用に関する研究分野の第一人者であり、自身の研究を通して生態系サービスの概要を包括的に示し、国際的な研究の枠組みを創出し、また、企業、地域、そして国に対し、政策提言を行ってきた。

デイリー博士は、科学に基づく生態系サービス管理の発展を目指す研究を行っており、これまでに150以上の学術論文を発表し、1997年に“Ecosystem Services: Benefits Supplied to Human Societies by Natural Ecosystems”、2002年には “The New Economy of Nature: The Quest to Make Conservation Profitable”を執筆している。

また、デイリー博士は、環境に関する国際的な研究の枠組みを創出するにあたって多大な貢献をしてきた。生態系保全のため、生態系サービスの評価を目的とした国際的な枠組である国連ミレニアム生態系評価(MA)では主執筆者を務めた。1998年には、米国大統領科学顧問委員会による生態学的な予測・評価に関する取組に貢献し、生態系サービスの概念構築および定量的評価の中心的な役割を果たしている。さらに生物多様性および生態系に関する政府間プラットフォーム(IPBES)、生物多様性科学国際協同プログラム(DIVERSITAS)、SATOYAMAイニシアティブや生態系と生物多様性の経済学(TEEB)など様々な国際的な枠組みの構築や活動と共に、デイリー博士の研究成果と生態系サービスの概念は確実に世界に普及している。

近年、デイリー博士はスタンフォード大学、ミネソタ大学、世界自然保護基金、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーとの共同プロジェクトである「自然資本プロジェクト(Natural Capital Project)」に尽力してきた。地球の天然資源に影響を及ぼすすべての主要資源を生態系サービスのアプローチに統合させることを目標として、デイリー博士はこのプロジェクトを共同創設したのである。自然資本プロジェクトの趣旨は、企業、政府、個人と自然とが相互に作用する方法を共に変換する、以下の3つの大きなステップと関連している。すなわち、(1)自然資本を評価するための新たなツールとアプローチを開発し、そうした価値をビジネスの実践と公的政策に取り入れ、(2)再生・拡張が可能な成功モデルのなかで、主要資源を決定するNatCapツールの能力を示し、そして、(3)こうした成功による影響力を拡げるため、主要機関のリーダー業務に従事する、というものである。究極の目的は、より大きく費用効果が高い投資を動かすことによって、生物多様性と人間の福利を改善することにある。

このプロジェクトの目的は、生態系の経済的価値を評価するためのソフトウェア・システムを開発し、選択的な決定とシナリオに基づいて変化を予測することにある。インベスト(InVEST: Integrated Valuation of Ecosystem Service and Tradeoffs、生態系サービスとトレードオフに関する統合評価ツール)によって、生態系サービスの伝達、分布、経済的価値のモデル化、マップ化が可能となった。すなわち、このツールによって、さまざまな開発シナリオによる影響、そして環境、経済、社会的な便益のトレードオフや交換性が視覚化されることにより、管理者や政策立案者に経済、健康、そして環境に対する、様々な資源管理の選択肢(シナリオ)の効果を提示することが可能となったのである。自然資源プロジェクトはすでに世界中で適用されており、特に中国、コスタリカ、ハワイなどでの事例では、デイリー博士が中心的な役割を果たし、その地域の特性にあわせた計画を策定し、方向性を示すことによって、生物多様性の保護に寄与している。

デイリー博士が生態系の価値を高めるとともに、多様性保全にも寄与し、これまで個別的であった保全活動を包括的に捉え、科学、ビジネスそして政策につなげた意義は深く、さらに継続的な研究活動、また生態系サービスという概念の更なる国際的な普及が見込まれている。また、世界中の様々な会議やワークショップで講演を行っており、学術的な多様性への貢献だけにとどまらず、NGO、企業また市民など一般社会への影響も非常に大きいことから、今後の活躍が期待されている。

以上の理由により生物多様性条約(CBD)の目的の一つである生物多様性の持続可能な利用分野に多大な貢献をしてきたデイリー博士が、The MIDORI Prizeの趣旨と合致し、受賞にふさわしいと評価された。

※ このプロフィールは2010年に作成されたものです。

主な経歴

1992年
スタンフォード大学 生物学博士号
1992〜1995年
カリフォルニア大学バークレー校エネルギー資源研究グループ
ウィンスロー/ハインツ研究所 ポスドクフェロー
1995〜2002年
スタンフォード大学生物学部 ビング学際研究員
2002〜2005年
スタンフォード大学生物学部・国際学研究所フェロー
2005年〜
スタンフォード大学生物科学学部 ビング環境科学教授
ウッズ環境研究所 シニアフェロー
保全生物学センター 所長

主な受賞歴等

2003年
米国芸術科学アカデミー会員
2005年
全米科学アカデミー会員
2008年
米国哲学協会会員
ソフィー賞(ノルウェー、ソフィー財団)
2009年
コスモス国際賞(日本、国際花と緑の博覧会記念協会)

主な著作等

1997年
“Nature's Service: Societal Dependence on Natural Ecosystems,” Island Press
2002年
“The New Economy of Nature: The Quest to Make Conservation Profitable,” Island Press
2009年
“Ecosystem service in decision making: time to deliver” Frontiers in Ecology and the Environment, Vol7, No.1:21-28
2010年
“Boundaries for a Healthy Planet,” Scientific American, April 2010 issue
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