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第1回生物多様性日本アワード(2009年) グランプリ受賞団体 活動報告

ひとつの花から始まった
湖の再生と持続可能な社会への物語
アサザ基金

プロジェクト概要

認定特定非営利活動法人アサザ基金(以下:アサザ基金)は、茨城県にある湖沼「霞ヶ浦」の水質悪化により絶滅に瀕していた「アサザ」を再生するため、1995年より流域の学校、住民、農林水産業、企業、行政等が連携して実施する市民型公共事業「アサザプロジェクト」を開始。湖各地での自然再生や里山の保全、外来魚駆除事業、バイオマス事業などを展開し、100年後にトキの舞う湖を目指している。


「死の湖」と呼ばれた湖の再生に挑む

日本第2位の表面積(167.63 km2)を有する霞ヶ浦は、東京から約60km、茨城県の南東部に位置する湖である。霞ヶ浦は豊かな湖岸の植生帯をもち、漁業資源も豊富な湖であったが、人口増加や経済活動の進展に伴った工業化や都市化に応じた大規模な水資源開発により、湖岸はコンクリートで固められていった。かつては汽水湖であったが、1960年代に竣工された常陸川水門が閉鎖にされたことによって、淡水化が進行した。

森林やため池などの身近な水源が失われつつあり、流入する水質も悪化。

霞ヶ浦で暮らしていた生きものたちも、湖の環境悪化により住みにくくなっていった。やがて植物もコンクリートの護岸からの打ち返しの波に浸食された結果、湖に暮らしていた鳥や魚なども減っていき、霞ヶ浦は「死の湖」とまで呼ばれるようになってしまった。

こうした状況のなか、浮葉植物であるアサザを復元することで波を和らげ、運ばれてきた土砂が堆積し、やがて浅瀬を形成する等、湖岸の植生が自らを保つ仕組みを活かしながら、湖の再生を行おうとして始まったのが、アサザプロジェクトだった。

水辺に咲く一輪の花が結びつけた21万人

1995年に始まったアサザプロジェクトは、地域のNPOや企業、住民、地場産業、教育機関、行政が協働で取り組んでいることが大きな特徴だ。

自然と共存する社会の構築には、産業や教育といった地域に広がる社会システムに環境保全機能を組み込むことで、生態系の物質循環や水循環を意識した「人」や「モノ」や「お金」の動きを作り出し、地域に則した循環型社会を構築していく戦略が必要となる。

同プロジェクトの発想は、自然との共存が、こうした戦略に基づいて構築される「人的社会的ネットワーク」と「自然環境のネットワーク」が重なり合ったときに実現するものという認識に基づいている。

アサザ基金は、こうした認識を基に、縦割りとなった行政をつなぎ、湖岸植生帯の復元、水源の山林や水田の保全、外来魚駆除、放棄水田を生かした水質浄化などを、大学や企業の先端研究、地域振興、雇用創出、環境教育と一体化しながら流域全体で展開することで、環境や福祉、産業、教育などの従来の分野間の壁を越えた事業展開を広大な霞ヶ浦流域で実現し、「新しい公共」のモデルを生みだしてきた。

その結果、今では流域の9割を越える200以上の小中学校が参加して、国が行う霞ヶ浦での自然再生事業に必要な在来水草の育成や植え付け作業、自然の復元目標の設定のために、お年寄りと共に行う昔の環境調査、流域全域で生物モニタリング、流域の環境保全に向けたまちづくり学習などの活動を地域住民も参加する総合学習の一環として行う等、同プロジェクトへの参加者は約21万人を超えている。

協働がもたらす更なる展開

アサザプロジェクトには、中心となる組織が存在しない。

中心にあるのは「協働の場」であり、緩やかなネットワークを通じて各主体が自らの目的を達成することで、環境保全が実現する仕組みは特徴的だ。

例えば、同プロジェクトは2005年から霞ヶ浦の漁協や流域の農協、スーパーと共同で、湖の外来魚を捕獲し魚粉肥料にして農産物を栽培、販売する取り組みを行ってきた。

「湖がよろこぶ野菜たち」というブランド名で販売中の農産物が、多くの消費者の手に渡ることで、湖の生態系に影響を与えている外来魚の駆除や水質浄化を効率的に進めようという取り組みであり、外来魚を魚粉肥料として有効に活用することで、根絶が不可能に近い外来魚を持続的に駆除するシステムができる。

また、水源地である谷津田の再生においては、複数の企業とネットワークを築き、多様なステークホルダーを巻き込みながら協働してきた。企業の社員ボランティアと連携し、再生した谷津田で生産した米を用いた日本酒の製造・販売を流域の酒造メーカー3社と共同で行い、販売額の一部を谷津田の再生に活用している。

こうした自然環境に配慮した農業を高付加価値の製品販売と組み合わせて推進した取組が評価され、2009年には公益財団法人イオン環境財団及び環境省が主催する第1回生物多様性日本アワード*のグランプリを受賞した。

*第2回生物多様性日本アワードは公益財団法人イオン環境財団の主催、環境省の後援によって実施された。

広がる「アサザモデル」が描く未来

アサザプロジェクトをモデルにした取り組みは、今では秋田県の八郎湖や滋賀県の琵琶湖、沖縄県宮古島などの全国各地に波及している。海外からも視察が相次ぐ等、地域コミュニティを活かした日本的自然観に根ざしたアジア発の自然保護・環境保全モデルとして関心を集めているといえる。

アサザ基金のこれまでの取組は、アジア的発想に基づく独自の取り組みであり、自然保護と地域活性化を同時に実現しようとしてきたものだ。

今後はアジア発のアジア型自然保護・環境保全の確立を目指していくと共に、霞ヶ浦流域における自然と人間の共生の未来に向けて、100年後に野生復帰したトキが湖面に舞う姿を目指している。

DATA

団体名:
認定特定非営利活動法人アサザ基金
代表理事:
飯島 博
設立:
1995年
所在地:
〒300-1222 茨城県牛久市南3丁目4-21
URL:
http://www.kasumigaura.net/asaza/index.html

受賞歴

●愛・地球賞(日本国際博覧会協会・日経新聞社主催、2005年)
●第1回 BIEコスモス賞日本代表(博覧会事務局主催、2008年)
●第1回 生物多様性日本アワードグランプリ(環境省・イオン環境財団主催、2009年)   他多数

(桑原 憂貴)

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