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第2回生物多様性日本アワード(2011年) グランプリ受賞団体 活動報告

湿地環境の指標種としての雁の保護と
人間との共生を目指して
日本雁を保護する会

プロジェクト概要

日本雁を保護する会は、ガン類の渡り経路を国際調査で解明。国内生息地での調査結果を「ガン類渡来地目録」等にまとめ、保全・啓発・提言活動を実施。近年はその生息地である水田に注目し、ガン類の生息地復元と生物多様性を活かし、農業との共生をめざす「ふゆみずたんぼ」の提唱・普及に取り組んでいる。


「雁のいる風景」を取りもどすために

1970年以来、冬の代表的な渡り鳥である雁類とその生息地を保護・保全する活動を長年にわたって継続している団体がある。日本雁を保護する会だ。

同会では、ロシア、米国、韓国、中国、モンゴルの研究者との共同標識調査を実施し、雁類の繁殖地と渡りの経路を解明。

国内では、残された生息地での調査を継続し、その結果をまとめた「ガン類渡来地目録」を活用しながら、保全・啓発活動及び提言を行ってきた。

絶滅の危機に瀕したガン類、特に群れでの渡りが絶えてしまった「シジュウカラガン」について日露米の関係者の協力を得ながら、30年余の歳月をかけて回復事業に取り組んだ結果、現在は200羽を越える群れにまで回復することができている。

雁と人の共生をめざした「ふゆみずたんぼ」

雁という文字は、人(イ)と鳥(隹)がひとつの屋根(厂 )の下に共生している。

同会は、雁という文字に示された関係を実現するために、冬の田んぼに水を張り、新たな雁の生息地と渡りのルートを復元し、それと同時に、雁と水田農業との共生を目指す活動に力を入れている。その取り組みの中心となっているのが「ふゆみずたんぼ」だ。

2002年11月に同会の会長を務める呉地は、スペインのバレンシア市で開催された第8回ラムサール条約締約国会議の際、アルブフェラ湖を訪れる機会があった。この地域はパエリア料理発祥の地であり、広大な水田地帯が広がっている。

この時、呉地が一番驚いたのが、刈り取り後の全ての田んぼが、満々と水を湛えていたことだった。バレンシア州では、毎年11月1日に一斉に田んぼに水を張る「ペレローナ」と呼ばれる取り組みが200年以上も前から行われていたのだ。

当時日本では、日本雁を保護する会などの呼びかけで冬の田んぼに水を張る取り組みが始まったところだったが、それは「冬期湛水水田」という固い言葉で呼ばれ、その存在は限られた人にしか知られていなかった。

世界初。水田に注目したラムサール条約湿地の実現へ

「ペレロ―ナ」のような美しい響きを持った日本語が欲しい。そう考えて、誕生したのが「ふゆみずたんぼ」という言葉だった。

江戸時代の会津農書(1684)には、土壌の肥沃を目的に、冬の田に水を張る「田冬水」という農法の記述がある。それを農業と生き物との共生をめざした取り組みに発展させて現代に甦らせたものこそが、「ふゆみずたんぼ」の取組だ。

当時、一般的には冬の田んぼは乾かすのが普通とされ、日本では冬の田んぼはほとんど乾田化されてしまっていた。「ふゆみずたんぼ」はその正反対のやりかただった。

呉地は、過去100年間で全国の湿地の60%以上が消滅し、ガンたちが利用できる湖沼が少ないという課題に対応するべく、水田の湿地機能は雁類の重要な採食地になり、その生息地復元と生物多様性を活かした水田農業との共生を目指して冬の田んぼに水を張る「ふゆみずたんぼ」の必要性を感じ、その取組を広く普及していくことをはじめた。

2005年には世界で初めて水田に注目したラムサール条約湿地「蕪栗沼・周辺水田」の実現に尽力。

2008年には、日本と韓国のNGOとともに、日韓政府がラムサールCOP10で共同提案した水田決議X.31「湿地システムとしての水田の生物多様性の向上」採択にむけた一連の取組を、積極的に支援し、その実現に貢献した。

現在、ラムサール条約湿地に登録された蕪栗沼・周辺水田では、農家が「ふゆみずたんぼ生産組合」を結成し、集団で付加価値の高い「ふゆみずたんぼ米」を生産・販売することにより、経済的にも大きな恩恵を受けている。

「ふゆみずたんぼ」の全国へのひろがり

「ふゆみずたんぼ」の取り組みは、水田の生物多様性を活かした農法として多くの農業関係者や田んぼの生き物調査などに関心を持つ市民団体、農業、環境NPOなどが関心を持つようになり、現在では全国各地で取り組まれている。

同会は、2010年の生物多様性条約COP10においても、日本政府が提案し、採択された「水田の生物多様性関連の決議」を立案段階から支援したほか、「国連生物多様性の10年」決議についても、その必要性をCOP10に先立って行われた国内準備会議で提案し、その後の運動の起点を作っており、日本の市民団体のオピニオンリーダーとしても大きな成果を残している。

こうした取組が高い評価を受け、2011年にイオン環境財団が主催する第2回生物多様性日本アワードのグランプリを受賞した。

日本雁を保護する会では、古来より日本人に親しまれながらも、現在では限られた場所でしか見られなくなってしまった雁の保護及び、雁の住める豊かな湿地の保全や復元を行い、「雁のいる風景」を再び全国の空にとりもどすことを目指し、その活動を今後も継続して実施していく。

DATA

団体名:
日本雁を保護する会
代表者:
会長 呉地 正行
設立:
1970年
所在地:
〒989-5502 宮城県栗原市若柳川南南町16
URL:
http://www.kt.rim.or.jp/~hira/jawgp/jawgp/

受賞歴

●日本鳥学会鳥学研究賞(1981年)
●日本鳥類保護連盟総裁賞(1994年)
●「みどりの日」自然環境功労者環境大臣表彰(保全活動部門)(2001年)
●愛・地球賞(日本国際博覧会協会・日経新聞社主催、2005年)
●生物多様性日本アワード(2011年)

(桑原 憂貴)

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