English

Q&A Biodiversity and Us

サンゴ礁がなくなると、どうなる?

近年、サンゴをめぐる話題が多くなっています。全国ニュースでも、宝石サンゴの密漁と資源の枯渇、サンゴ礁を作る造礁性サンゴ(イシサンゴ)の白化が話題になっています。「サンゴの白化」は深刻な状態にあるといわれていますが、環境悪化による白化現象等でサンゴ礁がなくなってしまうと、私達の生活にはどんな影響があるのでしょうか。

この分野の研究を行ってきた広島大学の小池一彦先生に教えて頂きました。

回答者:小池 一彦
広島大学大学院 生物圏科学研究科 准教授

Q1

サンゴの数が減ると、どんな問題があるのですか?

A

サンゴ礁は全海洋のたった0.2%を占めているに過ぎませんが、海洋生物の種数の1/4~1/3がサンゴ礁に生息すると言われるほど生物多様性の豊かな海域です。生物が多様であるほど、彼らの作り出す様々な物質が医薬品などに応用できる可能性も高くなります。また、健全なサンゴ礁は観光資源や漁業の場としても重要ですし、自然の防波堤として島を波浪から守る働きもあります。

Q2

サンゴの「白化」とは、どんな現象ですか?なぜ白化は起こるのですか?

A

サンゴはクラゲやイソギンチャクと近縁の動物(刺胞動物)ですが、「褐虫藻」と呼ばれる単細胞の藻類と共生し、褐虫藻から光合成産物を得ています。したがって、動物でありながら餌を食べる量は非常に少なくてすみます。白化とはこの褐虫藻が何らかの原因で減り、サンゴの骨格が白く透けて見えてしまう現象です。白化の程度がひどいとサンゴは死んでしまい、サンゴが支えるサンゴ礁生態系が崩壊します。1950年以降、世界の20%近いサンゴ礁が白化によって喪失しています。褐虫藻が減る最大の要因は水温の上昇です。これまでは海水温が30℃を超えるようなことは滅多にはありませんでした。しかし最近の気候変動によるものか、30℃以上の水温が長く続くことがあります。そうなるとサンゴの中の褐虫藻がダメージを受けます。サンゴはダメージを受けた褐虫藻を積極的に排出しようとします。これが白化につながります。32℃になるとサンゴの組織自体がボロボロと剥離してきます。こうなるともはや回復できません。

Q3

日本はサンゴ礁を有する数少ない先進国のひとつですが、サンゴ礁を守る上で日本の役割とは何だと思われますか。また、サンゴ礁を有する他の国ではサンゴ礁保全のためにどのような対策が講じられていますか。

A

まず、サンゴ礁を有する先進国のひとつとして、サンゴ・サンゴ礁に関する研究への貢献を期待します。サンゴ礁を守るためには、漁業を含め人間の立ち入りを制限することも必要かもしれません。オーストラリアのグレートバリアリーフや米国の北西ハワイ諸島のように、1700 kmを超えるような海洋保護区の例もあります。しかし私が注目したいのはフィリッピンです。フィリッピンではかつてダイナマイトやシアン化物を使った破壊的な漁業が横行し、サンゴ礁が壊滅的な被害を受けました。しかし現在は、非常にたくさんの小割の保護区を作り、サンゴ礁の保護に乗り出しています。保護区内では魚が増え、保護区の外での漁業も活性化します。この様な効果は、漁民が積極的にサンゴ礁を保護しようとする流れにつながっています。また、NPO等の組織が子供達に向け、サンゴ礁保全の大切さを学ぶエコツアーなどを多数開催しています。

Q4

サンゴを守っていくために、私達(市民)はどんなことをすればいいでしょうか?

A

実際に、本当に美しいサンゴ礁を訪れ、水中めがねをつけ、そこが生物の楽園であり、未来に残すべき大切な環境であることを実感して欲しいと思います。エコツアーなどに参加するのも良いでしょう。そのような美しい環境が、実はもう何十年ももたないかもしれない、これは怖いことです。このような危機感が多くの人の間で共有されれば、小さな力が大きな流れになって、サンゴを絶滅から救うことが出来るかもしれません。まずは興味を持つこと、真実を知ること、自分に関係ないと思わないこと、これらが大事だと思います。

小池先生、どうもありがとうございました。



The Koike Team Lab
(広島大学大学院 生物圏科学研究科 准教授 小池 一彦 先生 研究室ホームページ

English