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Q&A Biodiversity and Us

ミクロの世界

水の色は、何色だと思いますか?コップの中では透明ですが、海や湖、沼、川では青色に見えます。でも時には、水面が赤く見えたり、緑色の膜に覆われているように見えたりすることがあります。なぜでしょうか?こうした現象は、プランクトンの大発生によって起こることが多いのです。水の色は、原因となるプランクトンの色素によって変わるからです。プランクトンはどうして大発生するのでしょうか?顕微鏡でしか見ることのできないミクロの世界で何が起こっているのでしょうか?

夏が本番を迎え、水辺でのレジャーが解禁されるにあたって、水域生態学研究を行ってこられた 京都大学の中野伸一先生に教えていただきました。

回答者:中野伸一
京都大学 生態学研究センター センター長・教授

Q1

海や湖、沼の水面が赤く見えたり、緑色の膜に覆われているように見えたりするのは、なぜですか?

A

海や湖、沼の水の色は、いろいろな色に見えます。海の水が赤くなる場合は、渦鞭毛虫というプランクトンの一種、夜光虫による「赤潮」が原因である場合が多いです。湖の赤潮は、「淡水赤潮」と呼ばれ、琵琶湖に発生するウログレナという黄金藻類や、ダム湖に発生するペリディニウムという渦鞭毛藻類によっておこります。
湖や池、沼の水面が、緑色の粉を撒いたように見える現象は「アオコ」と呼ばれます。アオコは、シアノバクテリアという光合成を行う植物プランクトンの一群が大増殖したもので、ミクロキスティスやアナベナという細菌が代表的です。
「赤潮」や「アオコ」以外にも水面の色に影響するものがあります。沼や池の水面が赤いじゅうたんのように見えることがありますが、これはアカウキクサという浮き草の一種の繁茂です。また、田んぼに水が入る5月頃に水の表面に緑色の膜が張ったような現象が起こることが有りますが、これは健康食品などで有名になっているユーグレナ(ユーグレナ藻に属する植物プランクトン)が大増殖したものです。

Q2

赤潮、淡水赤潮、アオコといった現象は、なぜおこるのですか?

A

海や湖等に、いろんな理由で窒素やリンを多く含む水(農業排水、家庭排水、産業排水など)が流れ込むと、植物プランクトンにとってはエサが増え、多くの植物プランクトンが大増殖します。この植物プランクトンの大増殖が「富栄養化」です。赤潮、淡水赤潮やアオコは、植物プランクトンの集まりであり、つまりは生き物ですから、エサ(窒素とリン成分)が多い「富栄養化」の状態になると大量に増えるのです。
富栄養化は、人間の影響が無くても起こりますが、人間が出す様々な排水には窒素やリンが豊富に含まれていることが多いので、人間活動が海や湖沼の富栄養化をより起こり易くしていると言えます。

富栄養化は、全てのプランクトンにとって「エサ」が豊富な状態です。しかし富栄養化の状態では、赤潮やアオコの原因になる植物プランクトンが他のプランクトンに優占して増えるのです。それはなぜなのか、その理由はまだ良く分かっていません。

ケニヤ ビクトリア湖のアオコ (撮影 中野伸一)
顕微鏡写真 (撮影 今井洋幸)

Q3

赤潮、淡水赤潮、アオコの原因になるプランクトンによって、水質にどんな影響がありますか。

A

海の赤潮を引き起こす植物プランクトンの中には、毒を持つものもいます。淡水赤潮の場合は、かなり生臭いにおいが出ます。
アオコが発生すると、水辺の景色が悪くなり、腐ったアオコが悪臭を放ちますし、さらに悪いことに、アオコの中にはとても強い毒を作るものがいます。この毒は、我々人間にとっても有害なものです。

なお、湖沼、ダム湖、池によっては、その水を飲み水として人間が使うことがあります。日本の場合は、私たちの生活に被害が出ないよう、こういった水は浄水場などできちんと処理されています。

Q4

プランクトンは全体で何種類くらいいて、生態系の中でどのような役割を果たしていますか。「生物多様性」の視点から考えれば、プランクトンの種も多様であるほうが、いいのでしょうか。

A

海洋のプランクトンは15万種もいると言われています。湖沼の場合、例えば琵琶湖には、500種以上のプランクトンがいると言われています。
またプランクトンは、水の中の食物連鎖において重要な役割を持っています。植物プランクトンは光合成をして酸素と有機物を作ると共に、動物プランクトンに食べられます。動物プランクトンは、魚などに食べられ、死がいは、細菌や原生動物(ゾウリムシなど)の微生物(プランクトンの仲間)が分解します。私たち人間もまた、水を飲み魚を食べること等で、水中の食物連鎖にも常に関わっています。

 自然界には、多様な生き物の種が一緒に住んでいることが、大変重要です。たとえば、畑に一種類の農作物しか植えていなければ、昆虫等に一気に食べつくされてしまうかもしれません。しかし、たくさんの種(類)の植物が生きている土地では、一つや二つの種(類)の植物が昆虫に食べられても、その土地の植物は全体としてそれほど被害を受けないでしょう。水の中も同じで、多様なプランクトンが生きていれば、何かの環境変化でいくつかのプランクトンが大量死しても、その他のプランクトンが生きていて、生き残ったプランクトンが増えるなど、水の中全体としては何とかバランスを保つことができるのです。

中野先生、どうもありがとうございました。

 

京都大学 生態学研究センター

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