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もったいない

fj_mottainai.gif資源・エネルギー問題は今や世界的な課題であり、持続可能な循環型社会への転換が強く求められています。では、循環型社会の根幹となるものとは何でしょうか。そのヒントは17-19世紀の東京、<江戸>にあります。江戸は「もったいない」精神に支えられ、リサイクル都市として機能していたのです。

 

当時の江戸は百万人を超える大人口を抱える都市でしたが、町民の生活は限られた資源で営まれねばなりませんでした。ですから、資源を使い捨てることはとても「もったいない」ことだったのです。例えば着物。そのころの日本では、布はすべて手織のため生産力も低く、着物は大変な貴重品でした。着物は古着としてリサイクルされただけではありません。布団や座布団、袋物等様々に仕立て直され、木綿のものはおむつや雑巾として使い尽くされました。着物は、1反の布を同じ比率で直線断ちしたものなので、リサイクルしやすい構造になっているのです。着物も最後には燃やされて灰になります。ではその灰はどうなるのでしょうか?着物に限らず、江戸では金属や陶器以外のほとんどすべてが植物由来だったため、多くのものは燃やせば植物性の灰になりました。こうしてできた灰は、箱に溜めておいて灰屋に売ることができました。灰は、酒造、製紙、染色の際に使われるだけでなく、陶芸用の釉薬、農業用肥料、洗剤としても使われました。江戸には他にも様々なリサイクル業が成立していましたが、着物と灰、そして下肥が主要なリサイクル品目だったといわれています。江戸では排泄物を捨てるのもやはり「もったいない」ことだったのです。下肥は窒素やリンを含んだ有機肥料として使用できるため、農家は江戸の町民から下肥を購入していました。江戸では「もったいない」というコンセプトのもと、このようにしてリサイクルシステムが機能していたのです。

 

「もったいない」という言葉にはReduce(廃棄物の発生抑制), Reuse(再使用), Recycle(再生利用)という資源についての3つのRが全て入っているだけではありません。そこには自然への感謝の気持ち、Respectも込められています。現代人である私達にとっても、「もったいない」精神は循環型社会へと転換する際のキーワードになるのではないでしょうか。

 

この言葉に感銘を受け世界に発信したのが、2004年にノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんです。マータイさんは2005年の来日時に「もったいない」という日本語に感銘を受け、この言葉が環境標準語となりその精神が世界に広まれば、地球環境問題の改善だけでなく資源の平等な分配やテロや戦争の抑止にもつながると力説したのです。マータイさんは「Mottainai」キャンペーンを介し、「もったいない」精神の普及に努められました。

 

マータイさんは2011年9月、71歳で逝去されましたが、彼女の死後も「もったいない」の精神は世界にひろがりをみせています。同年10月、ナイロビの公園で行われたマータイさんの国葬も「もったいない」精神に基づいたものでした。公園にはローマ字で「Mottainai」の横断幕が掲げられ、大統領や国際機関の関係者らが参列するなか、最後のお別れに1万人近くの人々が集まりました。「木を切らないで欲しい」という遺言から、彼女の遺体は竹の小枝などで作った棺に納められたとのことです。

(谷本理恵子)

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