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鷹揚

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都内でも稀に見ることのできるトビ(トンビ、鳶)。その仲間であるタカ(鷹)やワシ(鷲)はすべてタカ目タカ科に属する猛禽類です。トビやタカが悠然と空を飛べるのは、自然界に天敵がいないということが大きいのですが、そんな猛禽類を飼い慣らしてしまうのが人間です。日本ではすでに古墳時代から「鷹狩」が行われていたとされ、近世以降はおもに武士階級のレクリエーションとして愛好されてきました。

 

初夢で見ると縁起が良いとされる「一富士二鷹三茄子(なすび)」。このランキングの由来は、徳川家康ゆかりの駿河国の名物を指すという説が有力とされています。二鷹の鷹とは、実は愛鷹山(あしたかやま)のことを指すようですが、鷹狩を好んだ家康は駿河の地でタカを多数飼育していました。また、タカは強くて賢く、獲物を鋭い爪でがっちりと「掴む」ということで、庶民にも縁起の良い鳥として認められていったようです。

 

鷹という字を当てた「鷹揚(おうよう)」という言葉があります。広辞苑第六版には、(1) 鷹が空を飛揚するように、何物も恐れず悠然としていること。(2) ゆったりと落ち着いていること、と記されています。もとは中国から伝わった言葉で、中国最古の詩集『詩経』の中に登場しています。

 

日本には「大様(おおよう)」という言葉が先にありました。『平家物語』には「重盛の卿はゆゆしく大様なる者かな」という記述があります。細かいことを気にせず大らかなさま、悪く言えば大雑把という意味だったようです。似たような意味を持つ二つの言葉ですが、『詩経』の鷹揚の方が字面も良いということで、しだいに統一されていきました。

 

字面のことは別としても、日本人とタカとの長い付き合いからして、タカが空を舞う姿に、大らかで寛容なイメージを託すことはごく自然のことだったと思われます。

 

山里でタカやトビが飛び交う光景は、まさに日本の原風景といえます。文明の中に暮らす現代人にとって、何物にもとらわれず悠然と空を舞う姿には、ある種の憧憬すら覚えることでしょう。

 

「鷹揚に構える」ということは、複雑に入り組んだ現代社会において、容易なことではありません。目先の利益や体面にとらわれて、他者の考えや行動に対して不寛容な態度をとりがちなものです。しかし、さまざまな生物が共生する地球上では、まず互いの存在を認め合い、自然の営みをありのまま受け入れていくという、寛容の姿勢が求められています。

 

鷹揚という言葉には、自然と共生する人間の境地が込められているといったら、大げさでしょうか。人はいかに鷹揚であり続けられるのか。もしかすると、タカやトビは大空から人間の有り様をずっと見つめ続けているのかも知れません。

 

                                                                                    (鈴木健司)

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