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歴代受賞者

2012年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者

フアン・カルロス・カスティーリャ

フアン・カルロス・カスティーリャ
チリ
チリ カトリカ大学生態学部 海洋生態学 教授

受賞のことば

公益財団法人イオン環境財団主催、生物多様性条約事務局共催によるThe MIDORI Prize for Biodiversity 2012受賞という大きな栄誉に心より感謝の意を表します。

海洋保全、生物多様性と資源の持続可能性という問題と対峙するとき、新たな解決法を与えうる、知識とリアリズムという2つの礎石があります。利用者、ステークホルダー、社会を統合することが不可欠である以上、単純な、トップ―ダウンの保全方法(例えば排他的な禁漁区のネットワークのみ)では、うまく機能しません。解決法とは容易にはなしえないものです。最良の事例は、生物多様性に関する生物多様性条約の定義です。この定義は、多様な相互関係が彩なす活力あふれる世界において、種の多様性に取組むだけでなく、社会-生態学的に取組むことが推奨されています。社会-生態学的なシステムの持続可能性は、ガバナンスと倫理的なバックグラウンドに支えられています。過去40年間、チリにおけるこの枠組みの中で、私は地域の小規模漁業コミュニティを統合し、沿岸資源の持続可能性のために新しい海洋保全・管理ツールを開発してきました。私達は調査を行ったチリの沿岸において、500以上に及ぶコミュニティに基づいた小規模漁業の共同管理ユニットを推進し、そのネットワーク作りを支援し、地域社会における排他的領海使用権を漁業従事者に与え、いくつかの保全地域との融合に努めました。今日世界的なモデルとして使用されているこのシステムの美点は、海底資源を持続可能なものとし、保全と生物多様性の補助的なネットワークが、強固なものとなることを証明してきたことにあります。人新世といわれる産業革命以降のこの時代において海洋の持続可能性に関する新たなパラダイムとは、保全と管理という2つのツールをひとつにするよう、それらを包括的に融解させ統合させることなのです。

授賞理由

フアン・カルロス・カスティーリャ博士は、海洋学者として生物多様性の保全と持続可能な利用を促す国の政策に関わり、生物多様性の損失および気候変動の有害な影響に対し、小規模海洋保護区における漁業資源を政府や沿岸・漁業コミュニティと共同管理することを提唱。この取り組みを通じて、小規模海洋保護区が零細漁業の生計向上、ひいてはコミュニティの持続的な発展、グリーンエコノミーの形成につながることを示した。このようなコミュニティに根差した活動が広まり、各国のコミュニティにおいて生態系に基づいた管理が行われれば、愛知ターゲットの達成へとつながるだろう。

また、沿岸および海洋の生物多様性は、近年、国際的に関心の高まっている課題のひとつであり、リオ+20でも取り上げられた。これは、2012年の「国際生物多様性の日」のテーマでもあり、COP11においても主要議題のひとつであった。海洋分野における博士の先駆的な取り組みは、沿岸・海洋の生物多様性にかけられている負荷を低減させるとともに、世界へ同様の活動を促すことが期待されている。

プロフィール

フアン・カルロス・カスティーリャ博士(1940年生まれ)は、天然資源の持続可能な利用を行う上で重要となる禁漁区および管理水域の研究で知られている。「南米における海洋生態学のパイオニア」と言われるカスティーリャ博士は、カトリカ大学生態学部の教授として海洋生態学、群集生態学を教えているほか、25年以上前に禁漁区研究の拠点となったチリのラスクルーセスにある沿岸海洋調査ステーションの局長を18年にわたって務めている。

禁漁区での長期的研究において、カスティーリャ博士は「人間が除外された」禁漁域および季節的な禁漁を調べるため、地域の漁協と協力して実験を行った。博士は、カトリカ大学実験所に作った小規模海洋保護区を通じて、海洋保護区が周辺海域の資源の増産や生物多様性の保全につながることを科学的に証明、この成果をもとに、小規模海洋保護区と持続可能な漁業の組み合わせを提唱し、チリ全体に広めた。

こうした取り組みは、チリの漁業・養殖業法、とりわけ底生生物資源の管理に大きな影響を与えただけでなく、資源の持続的利用と沿岸生態系の保存において零細漁業が果たす役割を明確にし、チリ沿岸地域での零細漁業を保護する制度をチリで実現した。また、Jane Labuchenko教授、Bruce Menge教授、Steve Gaines教授らチリやアメリカの研究者とともに、PEW財団海洋保全プロジェクト、メロン財団沿岸生態系プロジェクト、沿岸海洋学際研究パートナーシップ等の事業に参画しており、これらのプロジェクトについて60以上の論文を発表している。

こうした活動は、沿岸所有権や管理・開発水域、共同管理に関連したカスティーリャ博士の理論と実践により高い成果をあげている。また、生物多様性の保全と持続的利用の両立において、零細漁業の役割を世界で認知させ、生物学だけでなく新たな法制度の提案までを担ったことは、世界における生物多様性に関する取り組みにおいて発展的な影響力を持っている。

現在、博士は30以上の大学に招聘され、講義やセミナーを行っており、250以上に及ぶ論文を発表している。また、海洋公園ならびに保護区に関する先駆的な活動、沿岸資源の共同管理、海洋生物多様性の保全における業績が認められ、数々の賞を受賞している。

※ このプロフィールは2012年に作成されたものです。

主な受賞歴

1996年
第3世界科学アカデミー賞(生物学部門)
2006年
BBVA財団科学研究賞(生態学・保全生物学部門、アルゼンチンBBVA財団)
2010年
国家応用科学技術賞(チリ政府)
2011年
レイモン・マルガレフ賞(スペイン、カタローニャ地方政府)
2012年
野生生物保全賞(米国 野生生物保全協会)

主要論文・著作リスト

関連ウェブサイト

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