2012年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者
- ボ・クイ
- ベトナム
ベトナム国家大学ハノイ校 自然資源管理・環境研究センター 名誉総長
受賞のことば
The MIDORI Prize for Biodiversity 2012の受賞者に私を選出してくださいましたことに際し、The MIDORI Prizeの審査委員会の皆様に心より厚くお礼申し上げます。The MIDORI Prizeを受賞できましたことは私にとって大変な栄誉であるばかりでなく、ベトナム国、ベトナムの研究者、ベトナム国民にとってもまた大きな名誉であります。私はこの栄誉を、ベトナムにおける生物多様性の保全に関する私の仕事を長年にわたり支えてくれた、私の同僚、様々な国々にいる私の友人と分かち合いたいと思います。
ご存知のとおり、我々は生物多様性に依存して生きています。しかし今日、生息地や野生生物への負荷を高める人口の増大と資源消費に伴い、種の消失は加速しつつあります。限られた自然資本のなかで、我々が生存し、開発を続けていく方法を見出せるのかどうかは疑問であるといわねばなりません。
今こそ行動すべき時です。迅速に行動に移さなければ、解決すべき問題は深刻化してしまいます。とりわけ我々は、多くの国の経済の基盤となり、開発途上国の人口の大半が生活の手段としている生態系や生物多様性の甚大な損失をなんとしてでも避けねばなりません。生物多様性の損失と加速化する気候変動は、生態系の崩壊と社会的破綻へとつながるからです。
この問題の解決法はひとつではありません。世界のコミュニティのメンバーひとりひとりが果たすべき役割を持っているのです。大きなことを成す人もいれば、小さなことを成す人もいます。しかしいずれも、地球全体に貢献していることにかわりはありません。我々は皆、この問題に悩まされており、その解決のために協力しなければならないと私は考えています。なぜなら我々はただひとつの惑星-地球に共に生きているのですから。
The MIDORI Prizeに心からの感謝の意を表します。
授賞理由
ボ・クイ博士は、戦争によって破壊された自然環境を再生し、ベトナムの国土の50%を森林として甦らせるという高い目標を掲げ、科学的見地からマスタープランを作成した。この計画は国の環境政策に採用され、大きな成果をあげている。また、ベトナムの科学者を育成するとともに、科学者のコミュニティへの参画促進にも尽力し、能力開発や環境に対する意識改革にも多大な貢献をしてきた。科学的手法を導入するとともに、コミュニティと協働するという博士の取り組みは、枯葉剤などの影響で深刻な状況にあった戦後の森林を再生し、生物多様性の豊かさの向上に大きく貢献している。国あるいはコミュニティのレベルで科学的に自然環境を再生するこの活動は、他の開発途上国における自然環境の保全・修復のモデルとしての評価も高い。戦争による森林破壊と生物多様性の損失の増大は、世界が直面する問題であり、この取り組みはベトナムに限らず、世界の森林再生と生物多様性の保全に貢献することが期待されている。
プロフィール
ボ・クイ博士(1929年生まれ)は、ベトナム高等師範学校で生物学を学んだ後、1956年からハノイ大学で教鞭をとり、1960年代初頭にモスクワ大学に留学、1966年に鳥類学の博士号を取得した。その後、ベトナム国家大学ハノイ校動物学の教授に就任し、現在まで同大学の教授を務めている。
ベトナム戦争下、博士は他の研究者と共に非武装のまま数多くの戦闘地域に入り、密生する熱帯林や農地が枯葉剤の影響で広範囲にわたって荒廃しているという状況を目の当たりにし、国土を再び緑化することの重要性を強く認識した。博士は1971年から1985年まで「南ベトナムの環境および生活資源に対する枯葉剤の長期的影響調査」リーダー、1985年から1990年まで「枯葉剤の影響に関する委員会」副議長として戦争の影響で荒廃した森林の再生に尽力した。
1985年には、環境問題に関するベトナム初の研究および訓練機関である自然資源管理・環境研究センター(CRES)をハノイ大学(現ベトナム国家大学ハノイ校)に創設した。同センターで博士は、他の科学者たちと協働し、国土の50%の森林を復元させることを目標にマスタープランを作成、この計画は国家の環境戦略として採用されている。1989年には科学者チームのリーダーとして「ベトナム環境保護法」の作成に関わる等、環境保護の国策の作成に際して中心的な役割を果たした。さらにCRESの若手科学者が、保護区の管理やベトナムの自然保護の必要性を示すガイドラインを提示し、住民が進める環境保全事業や環境政策の推進に貢献する等、人材育成にも貢献している。
また、戦争の影響で絶滅したと思われたヒガシオオヅルを発見するとともに、インドシナ半島での渡り鳥保護協定の締結など保護活動に尽力し、1988年には1,000羽以上の飛来を実現させるなど野生生物保護においても多大な貢献をしている。1986年からは、国際自然保護連合(IUCN)のメンバーとして、絶滅の危機にある野生生物種の保全に尽力してきた。また数年にわたり世界自然保護基金(WWF)、国連環境計画(UNEP)、ユネスコ「人間と生物圏」計画(MAB/UNESCO)と緊密に協働するなど、国際的にも広く生物多様性の保全に貢献している。
国土の自然を保全し、再び緑化するために、住民が主体となって進める環境活動を積極的に推進してきた博士は「ベトナム環境保護の父」と呼ばれており、ベトナムの荒廃した自然環境の保全・修復に関する努力と成果は、同様の課題を抱える開発途上国の模範となっている。
※ このプロフィールは2012年に作成されたものです。
主な受賞歴
- 1988年
- WWF香港ゴールド・メダル
- 1992年
- UNEPグローバル500 リオ・デ・ジャネイロ
- 1994年
- IUCN ジョン・フィリップス・メモリアル・メダル・ブエノスアイレス
ブルーノ・H・シューベルト財団環境賞(カテゴリーI、ドイツ、フランクフルト) - 1995年
- PEW研究者賞(米国、ミシガン大学)
- 1997年
- オランダ王国金約櫃勲章
- 2003年
- ブループラネット賞(日本、旭硝子財団)
- 2008年
- “Heroes of the Environment”(タイムズ誌)