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歴代受賞者

2014年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者

カマル・バワ

カマル・バワ
インド
アショーカ生態学環境研究トラスト(ATREE、インド)代表
マサチューセッツ大学 ボストン校 特別教授

受賞のことば

The MIDORI Prizeの授与により、私共の取組を顕彰して下さいましたイオン環境財団に心よりお礼申し上げます。The MIDORI Prizeは、人間に対する生物多様性の重要性を浮き彫りにするものであります。また同時にThe MIDORI Prizeは、マサチューセッツ大学ボストン校、ならびに私がインドに設立したシンク・アンド・ドゥー・タンク「アショーカ生態学環境研究トラスト(ATREE)」において、私が過去数十年間にわたり、独自の研究プログラムによって取り組んできた生物多様性の保全手法に光をあてて下さいました。この手法の核心部分は、学際的な知見を生み出すことにあります。生物多様性の保全と持続可能な利用を目的としたこうした知見には、政治や現地活動の変革、参加型ガバナンスの推進、地域の人材開発に大きな影響力があります。近年、生物多様性条約の締約国によって明確にされてきた 生物多様性の複合性に対応し、発展的な目標を達成するためには、こうした包括的で多方面的なアプローチが求められています。人口の過密化する熱帯地域、とりわけインドのような国々においては、環境問題に関心の高い人々が生物多様性の保全に取り組む一方で、日々の暮らしの改善を必要とする人々がいます。インドではこの両方において大きな進歩が成し遂げられつつあります。ATREEはインド国内外の最前線でこうした取組を行ってまいりました。18年間という短い期間に、ATREEのスタッフが研究・教育・アウトリーチプログラムを通して献身的に業務に従事してきたことにより、ATREEはアジアにおける第一級の環境センターのひとつへと成長することができました。The MIDORI Prizeの受賞により、ATREEの価値と信念を再度確認させていただくことができ、また、今後取り組むべき様々な課題があることをあらためて思い起こさせていただいたものと考えております。

授賞理由

カマル・バワ博士(1939年生まれ)は、生物多様性ホットスポットにおける保全、およびそうした地域での生活手段に関する画期的な研究によって、生物多様性科学に知的貢献を果たしてきた。博士は200に及ぶ学術論文や10の著書、専門研究論文を発表している。博士は熱帯林の生態や進化について、それまで浸透していた概念を変える、樹木再生の新手法を発見。熱帯樹木について新種の遺伝子マーカーを開発し、熱帯地方で広がっている森林崩壊(森林の断片化)が生物多様性を枯渇させることを示した。また、保全のための新たなパラダイムやツールを開発したほか、保全と、貧困削減などの社会的目標の相乗効果を模索した。生物多様性のホットスポットでは保全の優先順位を特定している。

1996年、バワ博士は、生物多様性の保全と持続可能な開発に関する大手研究センターとして、インドにアショーカ生態学環境研究トラスト(ATREE)を設立。現在ATREEでは、インドにおいて3つのオフィスと7つのサテライト・センターを支援しており、155名のスタッフを雇用している。同研究センターでは、保全と持続可能性に関する科学に革新的な方法でアプローチし、希少な天然資源の管理のために新たな概念やツールを開発するほか、学際的な持続可能性科学の分野において新たなリーダーの育成に取り組んでいる。また近年、ATREEでは、保全科学および持続可能性研究のためのアカデミーを創設し、学際的な博士課程プログラムを実施している。ATREEはインドにおける第1級の保全機関のひとつとして頭角を現しており、インド国内における生物多様性研究や政策に影響を与え、また世界各国の環境機関にモデルを提示している。世界のシンクタンクに関するペンシルベニア大学の報告では、ATREEはアジアで第1位の、世界で第19位の環境シンクタンクであると評価されている( 2011年および2012年)。

バワ博士は、様々な協議会や国際的なグループの委員長またはメンバーとして、保全科学、活動や政策の方向性に影響を与えてきた。また熱帯生物学協会の会長として、21世紀の保全戦略計画の策定を主導してきた。農業システムにおける生物多様性を協議する国際討論のために、農業ランドスケープにおける生物多様性の促進に関する計画を共著。西ガーツ、東ヒマラヤといった生物多様性の「ホットスポット」に関する戦略的保全計画の策定に主導的な役割を果たした。また博士は、インドの生物多様性ホットスポットに関する2冊の卓上用大型豪華本「サヒアドリ:インド 西ガーツ」「ヒマラヤ、山の生活」を著している。広く知られたこれら2つの生物多様性ホットスポットに関する著作にとどまらず、バワ博士は、保全生物学者のための主要テキストである「保全生物学:南アジア入門書」の共著者を務めている。

バワ博士は、研究、ATREEの設立、世界的機関への影響、保全生物学ならびに持続可能な開発に関する著作を通して、顕著な貢献を果たしている。

プロフィール

カマル・バワ博士は、インド、バンガロールに所在する世界的なシンク・アンド・ドゥー・タンク、「アショーカ生態学環境研究トラスト(ATREE)」の代表であり、マサチューセッツ大学ボストン校で生物学の特別教授を務める人物である。バワ博士は、経済と生物多様性保全の両立に正面から取り組むことで、世界中の保全モデルとして役立つ重要なwin-winソリューションを生み出し、インド、コスタリカ、米国等、南北格差を超え、世界に貢献してきた。非木材林産物採取の持続可能性に関する彼の先駆的な仕事は、保全と人間の幸福な生活が同時に実現できることを実証している。

バワ博士の知的貢献は目覚ましく、生物多様性科学における保全研究は画期的なものである。博士は熱帯雨林の生態や進化について、それまで浸透していた概念を変える、樹木再生についての新しい手法を発見。熱帯樹木について新種の遺伝子マーカーを開発し、熱帯地方に広がる森林崩壊(森林の断片化)が生物多様性を枯渇させることを示した。また、保全のための新たなパラダイムやツールの開発、生物多様性ホットスポットにおける保全の優先順位特定によって、保全と貧困削減などの社会的目標の相乗効果を模索した。メンターとしては、2000人の学生と、30人の博士課程やポスドクの研究者を指導してきた。

バワ博士が1996年に設立したATREEは、そのユニークな学際的アプローチによって、政策提言にも携わっており、西ガーツ山脈のユネスコ世界遺産登録を主導した他、国立公園での採鉱の禁止、森林法の施行等を実施してきた。ATREEでは、80人の主要研究スタッフのうち27人が博士号を有しているほか、生物多様性分野の学際的な博士課程プログラムが運営されており、21世紀のインドの保全施策に必要となる人材開発が行われている。 ATREEはインドや開発途上国だけでなく世界にとっての研究、教育、政策機関のモデルを構築しており、ペンシルベニア大学のグループによって、アジアで第1位、世界で第19位の環境シンクタンクであるとの評価を受けている( 2011年および2012年)。

またバワ博士は、熱帯生物学協会の会長、国際的・学際的なジャーナル「保全と社会(Conservation and Society)」の創刊者・編集長、ナショナルジオグラフィック協会の研究調査委員会のメンバーを務め、保全科学、活動、政策にも影響を与えている。また、インドの生物多様性ポータルサイトを立ち上げ、同国の生物多様性の普及啓発にも寄与している。

※ このプロフィールは2014年に作成されたものです。

略歴

1939年
インド パンジャーブ州カプールタラー県生まれ
1960年
パンジャーブ大学 学士号(植物学)
1962年
パンジャーブ大学 優等修士号(植物学)
1967年
パンジャーブ大学 博士号(植物学)
1967~1972年
ワシントン大学 森林資源カレッジ(米国、ワシントン州シアトル)博士研究員(ポスドクフェロー)、講師
1974~1981年
マサチューセッツ大学 ボストン校(米国、マサチューセッツ州ボストン)生物学部助教授 (1974-1977年)、准教授 (1977-1981年)
1986~1996年
マサチューセッツ大学 ボストン校 生物学部 教授
1989~1992年
マサチューセッツ大学 ボストン校 生物学部 学部長
1996年~現在
アショーカ生態学環境研究トラスト(ATREE、インド) 代表
1996年~現在
マサチューセッツ大学 ボストン校 生物学部 特別教授

主な顕彰・受賞歴

1972年
ハーバード大学 マリア・ムーア・ケイボット/チャールズ・バラード研究フェローシップ
1981年
マサチューセッツ大学 ボストン校 優秀奨学生総長賞
1984, 88, 96, 99年
マサチューセッツ大学 ボストン校 優秀学部長賞
1987~1988年
グッゲンハイム・フェローシップ
1991~1994年
マサチューセッツ大学 ボストン校 研究教授
1991~1996 年
ピュー・リサーチ・センター研究員(保全および環境)
1996年~現在
マサチューセッツ大学 ボストン校 生物学部 特別教授職
2003年
熱帯生物保全研究所 名誉フェロー
2007年
マサチューセッツ大学 ボストン校 優秀教員総長賞
2009年
保全生物学会 学会賞
2009年
ハーバード大学 チャールズ・バラード研究フェロー
2009年
ハーバード大学 ジョルジオ・ラファーロ研究フェロー(持続可能性科学)
2012年
アメリカ芸術科学アカデミー 特別フェロー
2012年
ノルウェー王立学術院 グンネルス持続可能性賞
2014年
アルバータ大学(カナダ アルバータ州エドモントン) 名誉理学博士号

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