2014年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者
- ビビアナ・ヴィラ
- アルゼンチン
ビクーニャ/ラクダと環境 学際研究プロジェクト(VICAM)代表
アルゼンチン学術研究会議(CONICET) 主席研究員
受賞のことば
公益財団法人イオン環境財団主催、生物多様性条約事務局共催のThe MIDORI Prize for Biodiversity 2014を私に授与していただき、大変光栄に存じます。これら2つの機関と、私を推薦して下さったノミネーターに感謝の意を表します。
栄えある、名声高きThe MIDORI Prizeを受賞でき、誠に幸甚です。私にとってのプロジェクトとは、私という人格の欠くべからざる一部です。The MIDORI Prizeを受賞するにあたり、そうしたプロジェクトを実施できるこの人生に、感謝の念を深めて参りたい所存です。私は23歳のときから現在に至るまでアルゼンチン学術研究会議(CONICET)において、アンデス山脈アルチプラノ高原で野生動物ビクーニャの研究に邁進して参りました。現在私は、ビクーニャ/ラクダと環境 学際研究プロジェクト(VICAM)の代表を務めています。このプロジェクトは、素晴らしい学際研究グループによって実施されているもので、彼らの貢献もまた、本賞に値するものと思っております。
ビクーニャはとても美しい動物で、生物学的、生態学的にも非常に興味深い種です。またアンデス高地の先住民族コミュニティにとって、シンボル性、社会・経済的価値も大変高いものです。
私はビクーニャに関する科学的な研究を行うことにより、ビクーニャの保全と管理に関する政策決定に基盤を与えることができました。また私は伝統的な知見、アイデア、信念、アルチプラノの人々の提案に対し、常に大きな関心を持って接してきました。持続可能性のために私たちがなすべき決定とは、動物の福利、ガバナンス、倫理を包含し、科学データと地域の知見に基づいたアイデアの複合体であるべきなのです。
ビクーニャの繊維は世界で最も細いもののひとつであることから大変珍重されてきました。ビクーニャは持続可能な方法で利用されていましたが、スペイン人による征服以降は、ヨーロッパに革を輸出するという理由から大量捕殺が行われてきました。共和制時代も密猟が続き、20世紀半ば、ビクーニャは絶滅の危機に瀕していました。以降、数十年にわたる集中的な保全対策を地域のコミュニティが遵守した結果、現在ではビクーニャの持続可能な利用が可能となりました。こうした対策の実施のため、私たちは古代の野生生物捕獲技術「チャク」を復活させ、地域のコミュニティとともに行ったボトムアップ戦略の中では、現代的な動物の福利を管理するべく配慮して参りました。山岳の生態系は脆弱なものですが、現在では地域の持続可能な開発によって山岳地域の人々の生活手段が確保され、同地域の土地と文化が維持されています。
自然と野生生物は、人類にとっての幸福の源泉です。私達が地球に対して抱いているミッションとは、「科学的、倫理的、精神的な価値のために野生を守ること」であり、私は今日生きている全ての人々が、この考えに賛同して下さるものと思っています。パチャママ(*)、母なる地球とは、アンデスの力強い女神に与えられたものに他なりません。
*地上のすべての生き物に生命と活力を与える古代インカ帝国の神。文化の神。
私が抱く動物への愛と自然への驚嘆の念は、私の祖母メメの教えを通じて、子供時代から培われてきました。また私の母も、動物を愛する人物でした。 私はこの賞を、私のとても大切な二人の女性、祖母と母に、そして私の夫ウーゴと息子たちに捧げたいと思います。
授賞理由
ビビアナ・ヴィラ博士(1961年生まれ)は、アンデス地方の野生動物ビクーニャ(*1)について、地域の先住民の伝統的な知識と生態学、動物行動学、動物の福祉といった現代の科学を融合させて保全対策の実践を主導した。また、経済的価値が高いビクーニャの体毛の持続可能な利用を通じた地域コミュニティの支援や環境教育の実施も統合的に推進し、野生生物の保全と地域コミュニティの安定的発展の両立を実現し、地域に根差しながらも世界的に注目すべきプロジェクトの牽引役として大きく貢献した。
ビクーニャの保護と持続可能な利用に関するヴィラ博士の業績は、現代的な野生生物保全モデルのひとつとして位置付けられるものであり、非常に意義深い。アンデス地域においてビクーニャは生態学的に重要なだけでなく、その体毛などの有用性から経済的にも社会文化的にも重要な種としてかつては大切に扱われてきたが、過去数世紀にわたり大量に捕殺され、生息数が減少した。ビクーニャの回復と持続可能な利用を目指し、博士は、研究プロジェクトグループVICAM(*2)を主導し、アンデス地域のコミュニティの協力を得て、ビクーニャを囲い込み殺さずに体毛を刈る古代の野生生物捕獲技術「チャク」を復活させ、手続きにのっとった野生ビクーニャの捕獲、毛の刈込、リリースといった流れのアプローチ開発に成功した。この結果、経済的に困窮していた先住民のコミュニティは収入を得られるようになり、生態系や種の保全にインセンティブを見出すようになった。この取組は、地域の伝統的知識と現代の科学的アプローチを融合させ、地域の先住民コミュニティの自立を支援し、環境教育を実施することによって、長期的にビクーニャの保全と先住民の生活の安定・向上を図ろうとするものであり、「人と自然の共生」という概念を具現化する優れた実践例といえる。
野生生物の保全と地域コミュニティの安定的発展との両立を実現した牽引役として、博士の貢献は高く評価された。
(*1)ビクーニャ
南米に生息するラクダ科の哺乳類。絶滅危惧種としてワシントン条約附属書IIに記載されている(アルゼンチン等、数ヶ国では個体数が依然として不安定であり、附属書Iに記載されている)。ビクーニャの体毛は動物界で最も細く、その毛製品は高級品として利用される。(附属書Iに記載されるか、附属書IIに記載されるかは、保全状況によって決まる。種全体に対するルールが存在するわけではない。)
(*2)研究プロジェクトグループVICAM
VICAM(Vicuñas, Camelids and Environment)は、ビクーニャ等ラクダ科の動物の保全に関し、環境教育などにより、生物科学、社会科学面から保全対策にアプローチしているアルゼンチンの研究グループ。12名の研究者が地域の先住民族の伝統的知識に敬意を払いながら、科学的に生物多様性の持続可能な利用を推進している。
プロフィール
ビビアナ・ヴィラ博士は、アルゼンチン学術研究会議(CONICET)主席研究員、またビクーニャ/ラクダと環境 学際研究プロジェクト(VICAM)のリーダーを務める人物である。博士はアルゼンチン北西部アンデス山脈アルチプラノ高原において、実践的かつ象徴的な生物多様性保全プロジェクトを30年以上にわたって実施してきた。ヴィラ博士は非常に優秀な研究者であり、野生生物の保護活動家としても傑出した人物である。
南米においてビクーニャは、生態学的にも、経済学的にも、社会文化的にも非常に重要な野生種である。しかしビクーニャ毛が大切にされてきた一方で、大量捕殺が数世紀にわたって行われてきた。ヴィラ博士が主導する研究グループVICAMは、ビクーニャの保全と持続可能な利用を目的としてアンデス地域のコミュニティと協力し、スペイン人による征服以前から伝わる古代の野生生物捕獲技術「チャク」の復活に非常に重要な役割を果たしてきた。彼らが、野生ビクーニャの捕獲、毛の刈込、リリースといった一連のアプローチを開発したことで、経済的に困窮した先住民族のコミュニティに収入がもたらされた。この収入は、生物多様性だけでなく、種の保全や生態系の保全にも重要なインセンティブを与えている。VICAMは、生物科学、社会科学などの様々な経歴を持つ12名のメンバーによって構成された研究グループであり、保全の様々な様相に尽力してきた。科学に根差した環境管理と先住民族の知識をブレンドした VICAMの保全ビジョンは、科学データに基づき生態学的な持続可能性を推進すると同時に、地域の見識や実践に敬意を示すものである。このプロジェクトは現代的な野生生物保全のモデルであり、同様の分野で活動する人々にもインスピレーションを与えうるものである。
ヴィラ博士は、 優れた研究者でもあり、影響力の大きな学術誌に定期的に業績を発表している。またヴィラ博士は、遠隔地にあり、時に極度な寒冷地や乾燥地、強風にさらされる場所など、劣悪な環境下にある山岳コミュニティと効果的な協働を行ってきた。CONICETの主席研究員として、野生のビクーニャ、アンデスの環境の持続可能性に関する研究を行っているほか、教諭、メンターとしても優れた人物で、ルハン国立大学の非常勤教授として、「農村部における環境教育」を教授している。アルゼンチン科学省においては生物多様性と持続可能性に関する諮問委員会の科学コーディネーターを、アルゼンチン山岳地域開発委員会(FAOとのパートナーシップで実施)にCONICETの代表として参加する他、ラテンアメリカ動物行動学会の副会長を務めている。第3世界女性研究者組織(OWSD)では、フォーカル・ポイントの役割を担っている。
※ このプロフィールは2014年に作成されたものです。
略歴
- 1961年
- アルゼンチン ブエノスアイレス生まれ
- 1985年
- ブエノスアイレス大学 理学部 学士号(生物科学)
- 1990年
- ブエノスアイレス大学 理学部 博士号(生物科学)
- 1990~1993年
- 英国オックスフォード大学 動物学部 野生生物保全研究ユニット 博士研究員(ポスドクフェロー)
- 1994~1996年
- CONICETポスドクフェロー
- 1996~2003年
- CONICET助手 「ビクーニャの保全に関する包括的アプローチ」に従事
- 2001~2005年
- 欧州委員会プロジェクト「南米における野生のラクダ科動物の持続可能な経済的利用:ラテンアメリカにおける地域コミュニティの生産性向上戦略」(acron: MACS. ICA4-2001- 2004, 英国マコーレー研究所)にアルゼンチン第6パートナー(ルハン大学)として従事
- 2003~2007年
- CONICET準研究員
- 2007~2013年
- CONICET独立研究員
- 1997年~現在
- 国立ルハン大学 非常勤教授
- 2001年~現在
- 第3世界女性研究者組織(OWSD)アルゼンチン・フォーカル・ポイント(名誉職)
- 2007年~現在
- VICAM総括責任者・代表
- 2011年~現在
- アルゼンチン山岳地域における持続可能な開発のための環境委員会事務局(アルゼンチン山岳地域開発委員会)にCONICET代表として参加(名誉職)
- 2012年~現在
- アルゼンチン科学省 生物多様性と持続可能性に関する諮問委員会 科学コーディネーター(名誉職)
- 2012年~現在
- ラテンアメリカ動物行動学会(SOLAE)副会長(名誉職)
- 2013年~現在
- CONICET主席研究員
IUCNにおいては、教育とコミュニケーション委員会(CEC)、先住民族・地域コミュニティ・公正と保護地域に関するグループ(TILCEPA)、南米・ラクダ科動物専門家グループ(GECS)のメンバーを務める。
主な顕彰・受賞歴
- 1988年
- 「ビクーニャの親子関係」でアルゼンチン哺乳類学会 年間若手研究者賞を受賞(35歳以下に授与)
- 1998年
- ルハン国立大学における研究論文コンペでの受賞を記念し、論文「日干しれんがの学校における環境教育」を出版
- 2000年
- アルゼンチン北西部におけるルハン大学包括研究プロジェクト「ラクダ科動物と飼育民」で科学技術会議 社会科学研究 優勝
- 2005年
- カリフォルニア大学、ヴェラクルス大学で開催された持続可能な開発の成功事例に関する第1回会議において、論文「ビクーニャの持続可能な利用」がMACSアルゼンチンに選出・発表される
- 2005年
- 国際TELENATURA コンペティション(スペイン)においてVICAMの活動に関するTV番組「ビクーニャ毛の収穫」が自然保全活動家賞を受賞
- 2006年
- ロレックス賞ファイナリスト
- 2007年
- アルゼンチン政府 環境と持続可能な開発賞(環境教育におけるイニシアティブ)
- 2007年
- 英国ホイットリー自然保護基金 関連アワード
- 2007年
- ロレアル-ユネスコ女性科学賞ノミネート(アルゼンチンにおける生命科学)
- 2012年
- 国連環境計画(UNEP) 赤道賞 ファイナリスト (VICAMとして選出)
- 2012年
- 動物と人間の関係における学際的な貢献が認められ「獣医界賞」を受賞(獣医以外で初の受賞)
- 2013年
- 自然環境財団(FARN)環境イノベーション賞(VICAMとして受賞)