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2013/05/20
第3回 生物多様性 日本アワードへの期待  - 高橋俊守 -

これからの日本の生物多様性を維持するために、里山は特に重要な役割を担う地域です。第10回生物多様性条約締約国会議を受けて、平成24年9月に日本政府が閣議決定した「生物多様性国家戦略2012-2020」において、日本の生物多様性の危機の構造の一つとして、里山における自然に対する人間の働きかけが縮小することによる影響が指摘されています。

 

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里山は、人間と自然の作用によって長い年月をかけて形成された、文化的、生態的な地域空間です。農業や林業、漁業など、人間の生産活動が営まれることによって、生物多様性も維持されていることが特徴です。日本の里山のように、人間が長期間にわたって地域の自然と共生した暮らしを続けている事例は、韓国のマウル、フランスのテロワール、フィリピンのムヨンなど、世界中に見ることができます。

 

ところが日本の里山では、農林水産業の衰退や、農村で受け継がれてきた生活文化が変化するにつれて、環境にも大きな変化が生じるようになりました。これまでのように里山に人手が入らなくなり、各地でうっそうとした竹林が広がり、耕作放棄される田畑や放置される林が増えています。同時に、イノシシ、シカ、サル等、野生鳥獣の個体数が増え、分布域も拡大して、人間の生活域と重複するようになって全国各地で摩擦が生じるようになりました。

 

自然の恵みを持続的に受けるため、私達の祖先が長い年月をかけて維持してきた里山の価値を再評価する試みや、人間と野生鳥獣の持続的な関係を模索して行われる鳥獣対策も、生物多様性を維持することに貢献する活動に含まれます。むしろ、地域に里山を維持しようとする様々な取組みは、日本の生物多様性を維持する取組みそのものでもあります。生物多様性日本アワードが、里山で実践的な取組みを行っている、個人や団体を支援するきっかけとなることを期待しています。

 

高橋俊守 (宇都宮大学 農学部附属里山科学センター 副センター長)

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