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2013/10/15
未知の海洋  - フアン・カルロス・カスティーリャ -

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海洋生物多様性保全の分野でThe MIDORI Prize 2012を受賞できたことは私にとって大きな誇りです。世界的にも、陸地の生物多様性保全と比較すれば、海洋の生物多様性保全は立ち遅れています。このことは、我々人間が陸生生物であり、人間は海のほんの一部しかみていないということから考えれば、部分的には理解することができます。私は、「人間は海のことをなにもわかっていない」と言い続けてきました。海の前にいるとしても、我々は海の表面だけを見ているに過ぎないからです。幸運なことに、潮間帯、砂や岩といった潮の干満のある場所は、海と陸の位相を100%目にすることが出来る唯一の場所であり、こここそ、私が人生をかけて働いてきた場所です。

 

ここで私は、潮間帯の動物相、植物相、生物多様性、それらに関する生態学的メカニズムについての基礎観測を数百回にわたって行ってきました。また、数々の現地実験を行い(これが本来の科学のやりかたです)、チリにおいて海洋保護区を設け、禁漁区における人間の役割の理解に努め、子供向けのガイドを作成してきました。小規模な沿岸域において人間や漁業の介在を減らしたりなくしたりするという実験を行うことによって、生態系における人間の役割を理解することができました。人間とは海域の一部をなしているのであり、海域にプラスの影響もマイナスの影響も与えうるものです。こうした実験によって、海について大いに理解することができました。というのは、こうした海域は、潮下帯やもっと深部にある海洋システムとつながっていて、漁業者を含む数百万人の人々がこうした海域に依存しているからです。私の哲学的な観点からいうならば、我々はこうした関係をより理性的に理解しなければなりませんが、海洋を100%保護するということは不可能です。海洋は我々の日常生活の一部です。我々、海洋学者は、海洋が機能し続けるため、また食糧、文化、美学、レクリエーションといった海洋の生態系サービスを我々が享受し続けるため、そして人間の福祉を改善するために、海洋の機能を理解しなければなりません。私はディープ・エコロジスト(*)というわけではありません。人間は海洋と共存できるものと確信しています。海洋がどのように機能するのかを理解し、我々がいかにして海洋と共存すべきかを学ぶことこそ肝要です。それは私たち次第なのです。「海を利用するのをやめれば問題は解決する」などとあまりにも単純なことは言えません。事態はもっと複雑です。私は、チリにおいて小規模漁業者が沿岸域において海洋と実にうまく共存できているということを対外的に示してきました。そして現在のこの地点に到達するまで、20年という月日を要しました。多くの基礎科学、応用化学、地域の生態学的知識、法規制、そして「海洋に関する教育」によって、私たちは、この港ともいうべき場所までようやく導かれました。それはなしえることなのです。

 

海洋生物多様性に関する取組に着目し顕彰して下さったThe MIDORI Prizeに感謝いたしますとともに、「私たちは海洋について何も知らない。それゆえに海洋について関心や尊敬の念を抱き、私たちの目に見えないものを守ろうとすることはより困難なのだ!」と申し上げたいと思います。我々がチリで辿りついた「港」に行き着くことはさらに困難といえるでしょう。しかし、それはなしえることなのです。知識を蓄積するため、また子供たちや多くの人々にその知識を引き継ぐためには、科学が必要なのです。

 

(フアン・カルロス・カスティーリャ、 チリ カトリカ大学生態学部 教授、The MIDORI Prize 2012 受賞者)

 

 

*ディープ・エコロジスト http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=1815 

ディープ・エコロジーの実践家。ディープ・エコロジーは1972年にアルネ・ネス(ノルウェー)によって提唱された思想で、人間の利益のためではなく、生命の固有価値が存在すると考えるゆえに、環境の保護を支持するもの。ネスによると、すべての生命存在は、人間と同等の価値を持つため、人間が生命の固有価値を侵害することは許されないとされる。ディープ・エコロジーにとって、環境保護は、それ自体が目的であり、人間の利益は結果にすぎないとされている。

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