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2013/12/19
SILK  DIVERSITY: 生物多様性を利用した天然機能性繊維 「エリナチュレ」

 

「シルク」という資源は、地球上に10万種存在する。つまり、シルクを作る虫はカイコだけではなく、殆どの蛾、蝶、さらには甲虫の仲間からバッタの仲間まで盛り沢山だ。蜘蛛も含めるとそれ以上になる。こうした生き物は、どうして(何のために)シルクを作るのだろうか? それが私の研究の始まりでもあった。

 

シロアリモドキという虫は、手(前脚)のひらに沢山の毛を持ち、そこから一気に約200本の超極細シルクを歌舞伎役者のように吐き、自分たちの家を作る。また、ガムシという甲虫は、お尻の先からシルクを作り自分の卵を繭で覆う。シルクを生成する器官もまた様々で、カイコは唾液腺、あるものは消化管から、またあるものは生殖腺由来の組織から作り出す。これらは皆微妙に化学組成やナノ構造が異なる。

 

エリナチュレ 製品.jpg

昨年、「エリナチュレ」(シキボウ、東京農業大学共同開発)という不思議な繊維で、キッズデザイン賞を受賞した。この繊維は、エリサンという蛾の仲間のシルクを利用した繊維で、柔らかく細いものの、繭糸がカイコのように一本につながっていないという理由で殆ど利用されることはなかった。ところが、ウールやコットンは数センチで繊維になる。ならば、エリシルクもウールやコットンと同様に数センチに切って繊維をつくれば良いのでは?と思い、シキボウに今こそ日本の智恵と技術を活かした新しいシルクを作らないかと直談判した。それが4年前のことである。シキボウが2年かけて作った繊維がこの「エリナチュレ」である。

 

この繊維の特徴は、通常のカイコシルクに比べ光沢はないが、柔らかく、滑らない。その他、軽い、紫外線のA波、B波を共に強くカット、更にはアンモニアなどの消臭性が高い。これは、このシルクが持つ独特なナノ構造が関係している。多くの天然繊維は、機能性を持たせるために化学的処理を後加工で行うのが普通だが、このエリナチュレは、素材そのものに機能があるため、機能を持たせるための後加工は必要ない「天然機能性繊維」なのである。これなら子供にもお年寄りにも安心して使って貰える。私もTシャツやタオルを愛用しているが、サッと乾き、臭くならない。しかも洗濯機で普通にバシャバシャ洗えるのが良い。

 

この種は東南アジアが主な生息地で、このものづくりにおける1つの目的の軸はカンボジアの農家支援である。エリサンはキャッサバの葉を食べて繭を作る。蛹は現地で食用タンパク源として高く評価されている。キャッサバは食糧のイモを生産しながら、葉でエリサンを飼育。生息地である地元を軸に、生物多様性条約に合致した応援をシキボウも実践している。

Silk Diversityを利用した「ものづくり」は更に世界各地で行われるだろう。

 

長島孝行 (ニューシルクロードプロジェクト代表、東京農業大学教授)

 

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