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2014/02/28
ベトナム森林管理プロジェクト:地域住民との協働による生物多様性の保全 - ボ・クイ -

生物多様性は、ベトナム国民の現在そして未来における人々の営みの源泉です。しかし多くの地域の人々は、こうした種の資源の保全と適正に利用するという視点を持たずに、経済発展の名の元で資源を過剰に搾取してきました。そのため自然の生態系、特に森林の生物多様性は深刻な悪化の一途をたどっており、国家の社会経済的発展にもダメージを与えています。  

 

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こうした森林の損失は、貧困と急激な人口増加にその原因があります。ベトナムにおいては、森林や森林資源は「貧者のための一杯のご飯」といわれています。「ひとつしかない一杯のご飯」を眼の前にした空腹の人々に、たとえ人道的観点から許されないことだとしても、食べるなとは言えません。空腹な貧しい人々のために「ひとつしかない一杯のご飯」にかわりうる、もうひとつの「ご飯」を提供することこそが、生物多様性の保全につながるのです。境界線の策定、保護官によるパトロール、罰金、押収といった対応では、不法侵入を止められません。人々の欲求と自然保護の長期的な目標というギャップを橋渡しする新しいシステムとアイデアが必要です。住民の要望を認めた上で、地域住民と協働することは、教育や法規制よりも、効果的な保護の方法なのです。

 

1992年、ベトナムのケ・ゴー自然保護地域が設立される以前に、このアイデアを実行に移すため、私たちは1つのコミューン(ベトナムにおける小規模な地方自治体)を対象とした「ケ・ゴー森林管理」プロジェクトに着手しました。そして、1995年にはプロジェクトの対象地域を7コミューンに拡大しました。 森林と、そこに生息する野生生物、絶滅危惧種の保護・保全活動に地域の人々の参加を促すには、人々の経済状態を改善し、文化的な生活を維持しなければなりません。それは、村、コミューン、地域レベルでの地方自治体、地域の人々が保全活動に参加することにより実現できます。稲作やアグロフォレストリー(森林を農業と林業を組み合わせて活用すること)における新しい技術への転換、苗床の植え付けの補助、家庭菜園作り、畜産、小規模な水力発電所の設置、木材燃料を減らした調理用ストーブの利用等を行うことで、森林が持続可能な開発に与える効果について、地域住民の知識も向上しました。こうしたことによってこそ、森林や野生生物に関する計画や管理に地域の人々を巻き込むことができ、また、地域への負荷を削減する「持続可能」な方法での自然資源管理を実践することができるのです。

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7年後、このプロジェクトは成功をおさめ、コミューンの住民は森林がもたらす実質的な利益を認識することができました。以来、彼らは積極的に森林の修復・保全に参加しています。

 

ケ・ゴープロジェクトは、環境・生態学に関する科学研究にとどまるものではありません。このプロジェクトは、地域の現況と人々の理解に努めた地方自治体や研究者との緊密な協力により地域コミュニティによって実現化された、持続可能な開発という問題解決の実践的な事例でもあるのです。

 

この記事は、「貧しい人々、地域の人々が生物多様性の保全に目を向ける方法をいかにして見出すか」という問題に対処するものです。

 

ボ・クイ (ベトナム国家大学 ハノイ校、The MIDORI Prize  2012 受賞者)

 

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