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2014/05/19
西太平洋アジア生物多様性研究ネットワーク(DIWPA) 研究者ネットワークによる生物多様性研究の推進ー中野伸一

国際的な協働による科学研究の推進は、現在、その重要性がますます高まっています。1965年に国際生物学事業計画が発足した際、日本生態学会はこの計画を促進するために、陸水生物学に関する共同利用センター化の検討を1969年から始めました。これをきっかけに、現在の京都大学生態学研究センターが創設されました。重要なことは、生態研創設の1991年にあわせて生物多様性国際共同研究計画(DIVERSITAS)も設立されたということです。1992年に生態研が窓口となって日本として提案した「共生生物圏:生物多様性を促進する生態複合」が、国際的な科学・教育者組織であるIUBSSCOPEUNESCOに採択され、日本の生態学者を中心とする生物多様性研究者はこのことに大きな自信を持つことになりました。そこで、生物多様性研究を日本が主導的に進めるために、DIVERSITASにより積極的に関わることが検討されました。

 

こうして発足したのが西太平洋アジア生物多様性ネットワーク(DIWPA)です。DIWPAは、定期的にニュースレターを発行し、生物多様性に関する本の出版を行い、これまでに数多くの国際会議を開催、国際野外生物学コースによるキャパシティ・ビルディングも行ってきました。また、2001~2003年には、基準化された手法でサイト横断的観測を行う国際生物多様性観測年も行いました。

 

DIWPAの活動で、継続的に行われ、かつアジアと西太平洋地域の生物多様性研究者、とりわけ発展途上国の研究者に特に重宝されているのが、DIWPAニュースレター(委員長 中野伸一、事務局長 石田 厚)です。このニュースレターには、日本国内での生物多様性研究の動向だけでなく、アジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)などのアジア地域全域にまたがる生物多様性研究の最新の動きについて、タイムリーな情報提供を行っています。アジアやその他地域の発展途上国の研究者にとっては、最新の生物多様性に関する研究情報が限られています。学術論文情報はある程度入手可能かもしれませんが、論文になる前の状況、研究を立ち上げるための基礎固めとしての国際的な研究者間の議論は、論文では得ることができません。DIWPAニュースレターは、発展途上国の研究者が最新の研究動向に迅速に対応できるために、こういった情報をできるだけ早く掲載するようにしています。

 

 

図1DIWPA.png

DIWPAが行うもう一つの重要な活動は、国際野外生物学コースの実施です。これは、アジアの発展途上国から若手研究者を日本に招聘し、フィールド調査やデータ解析について日本人の大学院生との協同を通して実習してもらうものです。このコースに参加する若手研究者は、研究へのモチベーションが極めて高いものがあります。また、このコースは全て英語で行うため、参加する日本人大学院生にとっても大いに勉強になります。一週間程度の短いものですが、国内外の参加者皆さん大変満足してくださいますし、実施している我々も若者から大きな刺激を受けます。

 

図2DIWPA.png

 

ここ数年、DIWPAは、AP-BONの活動実績の一つである、生物多様性の本(AP-BON Books)の編集作業も担当しています。日本人研究者に限らず、アジアの生物多様性研究者は、多くのデータを抱えながら、論文等による発表の場が限られております。AP-BON Booksは、このような貴重であるにもかかわらず公表されていないアジアの生物多様性情報を積極的に発信する、重要な役割を果たしています。もちろん、生物多様性の測定や評価に関する最先端技術・情報も掲載されています。

 

 

 

このように、DIWPAは着々と活動実績を重ねています。我々の活動は、まだ小さいものですが、Future Earthなどの国際的に大規模な地球環境研究がスタートする今後、アジアの生物多様性研究の面でDIWPAが果たす役割は益々大きなものとなるでしょう。

 

 

(中野伸一、京都大学生態学研究センター 教授・センター長)

 

DIWPA Newsletter No. 30(最終頁)にThe MIDORI Prize 2014が掲載されています

 

 

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