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2014/08/26
小笠原諸島における新たな外来種侵入拡散防止の取り組み

 

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2011年6月、小笠原諸島は我が国で4番目の自然遺産として世界遺産リストに登録された(http://whc.unesco.org/en/list/1362)。世界遺産委員会では、これまでの外来種対策の取り組みを評価するとともに、外来種の侵入拡散防止のための努力を続けることが求められた。これを受けて、小笠原諸島世界自然遺産地域科学委員会(座長:大河内勇)に新たな外来種の侵入拡散防止に関するワーキンググループ(座長:吉田正人)を設置し、新たな取り組みを進めている。

 

 ワーキンググループの最初の仕事は、小笠原諸島における外来種侵入拡散のルートを再検討し、盲点を明らかにすることであった。その結果、客船である小笠原丸のみならず、貨物船による本土から小笠原諸島への物資の移動、すでに外来種のアリが侵入している硫黄島から父島への移動ルートについても重視すべきことがわかった。一方で小笠原島民による愛玩動物や土付き苗の移入も、新たな外来種の侵入ルートとしてリスクが高いことがわかってきた。

 

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 このような中、2013年3月に外来種のグリーンアノールが固有の陸産貝類や昆虫類の生息で知られる兄島の南部で発見され、外来種侵入拡散防止の予算はその対策に集中せざるを得なくなった。アノールは米軍統治時代にグアム島経由で兄島・母島に拡散、オガサワラゼミ、オガサワラシジミなどの固有の昆虫を絶滅に追いやっている。アノールが、兄島全体に広がれば、固有の昆虫の宝庫である兄島の価値が失われ、世界遺産リストから削除されるおそれさえある。また、父島にはアフリカマイマイの天敵であるニューギニアヤリガタリクウズムシという肉食のプラナリアが生息している。もしこれが、兄島に侵入した場合、固有の陸産貝類が絶滅に追いやられる可能性が高い。

 

 環境省や林野庁は、プラナリアの拡散防止に厳重な注意を払いつつ、兄島にアノール拡散防止のフェンスを設置している。また父島・母島では、属島への外来種の拡散を防ぐため、荷物のクリーニングルームを持った世界遺産センター建設を進めている。ワーキンググループは、新たな外来種の発見時のマニュアルを作成し、父島において緊急対応訓練を実施した。また、小笠原村では、イヌ・ネコ以外のペットに関する実態調査を行うとともに、土付き苗の温浴処理によるプラナリア侵入防止などの検討も進めている。

 

 今年の世界遺産委員会では、東レンネル世界遺産地域を有するソロモン諸島の代表からも小笠原諸島の外来種問題への取り組みについて質問を受けた。現在、小笠原諸島は、世界の島嶼生態系のモデルとなるような外来種侵入拡散防止の取り組みを開始しつつある。

 

(吉田正人、筑波大学大学院人間総合科学研究科世界遺産専攻 教授)

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