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2014/10/21
The MIDORI Prize for Biodiversity 2014 受賞者フォーラム開催

 公益財団法人イオン環境財団は、生物多様性条約事務局との共催により、10月21日、東京の国際連合大学ウ・タント国際会議場において、「The MIDORI Prize for Biodiversity 2014 受賞者フォーラム」を開催しました。

 

 フォーラムでは、The MIDORI Prize 2014の受賞者3名による講演と、東京都市大学環境情報学部教授の涌井史郎教授をモデレーターとする受賞者とのパネルディスカッションが行われました。

 

 

【受賞者講演 要旨】

 

カマル・バワ博士

「地球規模の変化、生物多様性、人間の福利について:ヒマラヤからの展望」
カマル・バワ博士
アショーカ生態学環境研究トラスト
(ATREE、インド)代表
マサチューセッツ大学 ボストン校 特別教授

 

 50年前、小さな列車で初めてダージリンの谷を訪れて以来、ヒマラヤの生命の多様さに圧倒され続けている。ヒマラヤは生物多様性のホットスポットで、そこにはまだ名を与えられていない種が数百種存在する。生物多様性は多くの人々の生命を守っているが、その状況は気候変動などの要因により変わりつつある。気温が1.5℃上昇し、降雨のパターンが変わったことで、ヒマラヤに暮らす人々の暮らしは大きな影響を受けている。科学者や政策決定者は、所有している様々なデータを利用し、地域の人々の暮らしを守るための行動を起こさねばならない。

 1996年に私がインドのバンガロールに設立したシンクタンク「ATREE」では、東ヒマラヤプログラムのもと、研究者、政策決定者、実践家、市民と共に、学際的な知見の交換と統合を行っており、生活手段の改善や環境教育を通して、地域の人々の経済的・社会的・生態学的利益の増大に努めている。今後は持続可能なランドスケープ、アプローチの統合、制度や政策の策定がますます求められていくだろう。

 

 

アルフレッド・オテング=イエボア博士

「自然を理解し、利用し、配慮すること-人間と生物界がその恵みを受けるために」
アルフレッド・オテング=イエボア博士
ガーナ生物多様性委員会 議長

 

 私たちは本当に自然に配慮しているだろうか?自然とは何か?生物多様性とは何か?その問いに答えるのは容易なことではない。現在、持続不可能な生物多様性の利用によって、生命維持システムに呼応する生態系サービスの利用は困難となっている。こうした混乱した状態にある環境からどうやって脱却すればよいのだろうか。そのヒントは世界的な取組みの中にある。「国連総会における決議文65/161」は国連生物多様性の10年を宣言するものであり、生物多様性をいかにして利用し、また守っていくかについて、私達に今後の道筋を提案してくれるものである。

 また「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」は科学と政策のインターフェイスとなる枠組みであり、生物多様性関連の合意形成に非常に有益である。「ミレニアム開発目標(MDGs)」を引き継ぐ「持続可能な開発目標(SDGs)」では、政府・民間セクター・個人・コミュニティの協働がますます求められることになるだろう。CBD インドCOP11では「自然を守れば、自然が守ってくれる」という素晴らしいスローガンが掲げられた。自然を正しく理解し、利用し、様々な取組を通して自然への配慮をしていくことができれば、2030年までにSDGsを達成することも不可能ではないだろう。

 

 

ビビアナ・ヴィラ博士

「ジュジュイのビクーニャ 科学的知見に基づいた野生生物保全:持続可能性を目指す研究者と地域コミュニティの協働」
ビビアナ・ヴィラ博士
ビクーニャ/ラクダと環境 学際研究プロジェクト(VICAM)代表
アルゼンチン学術研究会議(CONICET) 主席研究員

 

 アルゼンチンのアルチプラノ高原で自然と共に生きる人々にとって、ビクーニャは、文化、社会、経済等様々な観点において重要な種である。科学的な重要性ももちろん高い。ビクーニャは地域の生態系に大きな影響を及ぼしうるキーストーン種であり、傘下にある他種を保全するアンブレラ種でもある。しかしスペインの入植以降、ヨーロッパへの革輸出のために数十万頭のビクーニャが捕殺され、個体数は激減した。

 絶滅危惧種となったビクーニャの個体数を回復するため、VICAMはビクーニャを囲い込み殺さずに体毛を刈る古代の野生生物捕獲技術「チャク」を復活させた。研究者と地域コミュニティは「チャク」のプロセスで協働し、研究者はそこで得られた科学データを書籍や論文にとりまとめてきた。こうした努力によって、ビクーニャの個体数は回復しつつある。
またビクーニャの保全と持続可能な利用において非常に重要なのが子供たちや教諭への環境教育である。アルチプラノ高原という身近な自然環境を知ってもらうため、VICAMでは教材、書籍、子供向け番組の作成に取り組んでいる。

 

 

パネルディスカッション「生物多様性と地域 ~自然資本財としての側面から~」要旨
モデレーター: 涌井史郎教授
(東京都市大学 環境情報学部 教授、国連生物多様性の10年日本委員会 委員長代理)

The MIDORI Prize for Biodiversity 2014 受賞者フォーラム開催

・忘れてはならないのは、脆弱な人々への環境配慮
深刻な環境汚染は、自然環境を利用しながら生活を営まざるをえない脆弱な人々に特に甚大な影響を及ぼす。自然と共生しながら自然資本を持続可能な方法で利用する社会を形成するには、貧しい人々へのケアが不可欠である。

 

・キーワードは、「グリーン成長」「里山・里海」
自然資本財として生物多様性を利用し保全していくためには、環境保護と経済成長を両立させる「グリーン成長」、人が適度に利用することで豊かな自然が形成・維持されてきた「里山・里海」といった概念が今後ますます重要となる。

 

・「母なる自然」は、世界共通の概念
アルゼンチンの「パチャママ」、ガーナの「アサシア」、インドの神々など、母なる自然という概念は世界的なものである。生物多様性を自然資本財として利用する際には、母なる自然への畏敬の念を新たにし、自然の恵みを認識し慈しむ姿勢が不可欠である。

 

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