ユーリ・ダーマン氏は、アムール・エコリージョン・プログラム(Amur Ecoregion Program)において素晴らしいリーダーシップを発揮してきたロシアの保全活動のチャンピオンである。彼は、世界十大河川の1つであるアムール川において、40年間にわたり専門家としての責務を献身的に果たしてきた。同氏は1989年よりダムが淡水生態系に及ぼす影響を調査し、アムール川本流におけるダム建設反対キャンペーンを5度にわたり実施。アムールトラ、アムールヒョウ、東洋コウノトリのような象徴的な希少種を旗印として掲げ、科学的知見と伝統的知見を統合し、生物多様性保全のための包括的プログラムにまとめあげた。こうした彼の多大な努力により、同地域の保護区を増大させ、個体数を回復させることができたのである。
ダーマン氏は「保護区ネットワーク構築プログラム(Program for Protected Area Network)」の計画・実施に主導的な役割を果たしてきた。現在、この保護区ネットワークは、アムール・エコリージョンの12%を占めるに至っている。さらに彼は、4万頭に及ぶシベリアノロジカの移動個体群と北方タイガ地帯および北部湿地帯の生物多様性を保護するため、科学的な裏付けに基づいて、ノルスキー自然保護区、オルロフスキー連邦保護区、7つの州立野生生物保護区の設立に貢献を果たした(総計98万ha)。さらに、日本野鳥の会、東京大学、北海道大学と協力し、ツルおよびコウノトリの渡り経路に関する大規模調査を実施。調査結果に基づき、重要な中継地および繁殖地の全てがアムール川および支流流域の保護湿地帯に指定された(94.3 万haに及ぶ12の新たな保護区)。2000年からは、アムールトラの保護区のネットワーク形成に注力。国立公園や生物回廊に関連した革新的な取り組みを含め、彼の努力により、200万haに及ぶ保護区が創設された。最大の成功は、2015年にビキン国立公園(116万ha)が指定されたことである。密猟対策と法整備をあわせて実施することによって、現在、アムールトラの生息地の25%が保護されており、成体個体数は350頭から430頭へと増加している。
こうした保全活動を成功裏に行うには、市民社会との連携、政策策定への取り組み、国際協力がそれぞれ不可欠である。ダーマン氏はアムールヒョウの最後の個体群を保護する「生き残りを残らず救おう(Save each of the survivors)」キャンペーンを主導。その結果、このきわめて希少なネコ科動物は絶滅を免れ、個体数は30頭から80頭に回復した。また、ロシア連邦政府により設立された、26.2万ha(残存種の生息地の60%)にわたる「ヒョウの森(Land of the leopard)」連邦保護区も、こうした努力の賜物である。さらに、劣化した生息地を回復させるため、森林火災予防(延焼面積を大きく減少)および森林再生(150万本のチョウセンゴヨウの苗木を植林)に関するイニシアティブを実施した。こうした彼の保全活動はロシア国内にとどまらない。アムール川沿いに国境を接する自然保護区の連携は、中国とモンゴルとの協力による大規模な国際イニシアティブ「アムール・グリーンベルト(Amur Green Belt)」のもとで行われている。
ロシア/ドイツ気候イニシアティブ(Russian-German Climate Initiative)においては、木材を伐採しない非木材林産物の持続可能な利用を確保する大規模なプロジェクトを綿密に計画、実施。ダーマン氏は、生物多様性と気候変動の相互関係に着目し、現地での影響力の大きな活動を通して、生物多様性に関する重要な課題に取り組み続けている。
以上の理由から、ユーリ・ダーマン氏が生物多様性に果たした貢献は顕著であり、The MIDORI Prizeの受賞者にふさわしい。