生物多様性みどり賞(国際賞) 「国際生物多様性年」であった2010年、イオン環境財団が
20周年を迎えたことを記念して「The Midori Prize for Biodiversity」
(生物多様性みどり賞)を創設しました。
「国際生物多様性年」であった2010年、イオン環境財団が20周年を迎えたことを記念して「The Midori Prize for Biodiversity」(生物多様性みどり賞)を創設しました。

The MIDORI Prize for Biodiversity 2016 受賞者

※受賞者のプロフィールは受賞当時のものとなります。

ユーリ・ダーマン(ロシア)

世界自然保護基金ロシア アムール支所 所長

受賞のことば

アムール川が自由に流れ続け、その素晴らしい生物多様性が守られることを祈り、私は自身の人生をアムール川に捧げて参りました。ロシアと中国の国境地帯における迅速なインフラ整備の下で、経済と生態系、人と自然とのバランスをとることは急務でございました。また、生物回廊として自然保護区の包括的で代表的なネットワークを形成することは、そこで起こっている河川の氾濫とも関連が深く、保全活動の主要なツールにもなっています。世界自然保護基金(WWF)のアムール・エコリージョン・プログラムの枠組みにおいて、自然保護区、国立公園、野生生物にとっての避難場所は同じ場所にあり、少なくともプリモルスキ地方においては、愛知ターゲットの17%を達成することができました。さらに、アムールヒョウが絶滅の危機から脱しただけでなく、アムールトラの生息地の25%が保護されつつあります。

地球の生態学的状況はますます価値が高まっており、私たちはまさに、最後の野生の島々を守るための最前線にいるのだと言わねばなりません。霜や雪、蚊やダニ、道なき道や越えられぬ尾根-この場所で生活し活動していくことは容易なことではありません。政府機関の無理解、地域市民の無関心、長期的な努力の破たんのために、時には絶望を感じることもあります。私たちは、良心の助け、そして世界的な環境活動の大切な一員なのだと感じること、また多くの人々に私共の自然保護活動を知っていただくことを必要としています。公益財団法人イオン環境財団主催によるThe MIDORI Prizeは生物多様性条約の目標を実施する最高峰のアワードであり、私と、WWFロシアの取組を顕彰して下さいますことに、深い感謝の意を表します。

授賞理由

ユーリ・ダーマン氏は、アムール・エコリージョン・プログラム(Amur Ecoregion Program)において素晴らしいリーダーシップを発揮してきたロシアの保全活動のチャンピオンである。彼は、世界十大河川の1つであるアムール川において、40年間にわたり専門家としての責務を献身的に果たしてきた。同氏は1989年よりダムが淡水生態系に及ぼす影響を調査し、アムール川本流におけるダム建設反対キャンペーンを5度にわたり実施。アムールトラ、アムールヒョウ、東洋コウノトリのような象徴的な希少種を旗印として掲げ、科学的知見と伝統的知見を統合し、生物多様性保全のための包括的プログラムにまとめあげた。こうした彼の多大な努力により、同地域の保護区を増大させ、個体数を回復させることができたのである。

ダーマン氏は「保護区ネットワーク構築プログラム(Program for Protected Area Network)」の計画・実施に主導的な役割を果たしてきた。現在、この保護区ネットワークは、アムール・エコリージョンの12%を占めるに至っている。さらに彼は、4万頭に及ぶシベリアノロジカの移動個体群と北方タイガ地帯および北部湿地帯の生物多様性を保護するため、科学的な裏付けに基づいて、ノルスキー自然保護区、オルロフスキー連邦保護区、7つの州立野生生物保護区の設立に貢献を果たした(総計98万ha)。さらに、日本野鳥の会、東京大学、北海道大学と協力し、ツルおよびコウノトリの渡り経路に関する大規模調査を実施。調査結果に基づき、重要な中継地および繁殖地の全てがアムール川および支流流域の保護湿地帯に指定された(94.3 万haに及ぶ12の新たな保護区)。2000年からは、アムールトラの保護区のネットワーク形成に注力。国立公園や生物回廊に関連した革新的な取り組みを含め、彼の努力により、200万haに及ぶ保護区が創設された。最大の成功は、2015年にビキン国立公園(116万ha)が指定されたことである。密猟対策と法整備をあわせて実施することによって、現在、アムールトラの生息地の25%が保護されており、成体個体数は350頭から430頭へと増加している。

こうした保全活動を成功裏に行うには、市民社会との連携、政策策定への取り組み、国際協力がそれぞれ不可欠である。ダーマン氏はアムールヒョウの最後の個体群を保護する「生き残りを残らず救おう(Save each of the survivors)」キャンペーンを主導。その結果、このきわめて希少なネコ科動物は絶滅を免れ、個体数は30頭から80頭に回復した。また、ロシア連邦政府により設立された、26.2万ha(残存種の生息地の60%)にわたる「ヒョウの森(Land of the leopard)」連邦保護区も、こうした努力の賜物である。さらに、劣化した生息地を回復させるため、森林火災予防(延焼面積を大きく減少)および森林再生(150万本のチョウセンゴヨウの苗木を植林)に関するイニシアティブを実施した。こうした彼の保全活動はロシア国内にとどまらない。アムール川沿いに国境を接する自然保護区の連携は、中国とモンゴルとの協力による大規模な国際イニシアティブ「アムール・グリーンベルト(Amur Green Belt)」のもとで行われている。

ロシア/ドイツ気候イニシアティブ(Russian-German Climate Initiative)においては、木材を伐採しない非木材林産物の持続可能な利用を確保する大規模なプロジェクトを綿密に計画、実施。ダーマン氏は、生物多様性と気候変動の相互関係に着目し、現地での影響力の大きな活動を通して、生物多様性に関する重要な課題に取り組み続けている。

以上の理由から、ユーリ・ダーマン氏が生物多様性に果たした貢献は顕著であり、The MIDORI Prizeの受賞者にふさわしい。

略歴
1956年 ロシア連邦アムルスカヤ州ブラゴヴェシチェンスク生まれ
1973~1978年 ロシア連邦イルクーツク農学アカデミー  野生生物学部  生物学修士号
1976~1977年 ロシア連邦ブリヤート共和国 バルギジンスキー自然保護区 科学部 技術者・研究者
1978~1987年 ロシア連邦アムルスカヤ州 クニンガンスキー自然保護区 研究員、上席研究員、副所長
1986年 全ロシア自然保護・自然保護区研究所  博士号「ノロジカの生物学(Biology of Roe deer)」
1987~1994年 ロシア科学アカデミー極東支所 アムール地域研究センター 上席研究員
1988~1993年 アムール州議会環境委員会副議長
1994~1999年 NPOアムール社会・エコリージョン連合 代表
1999~2016年 世界自然保護基金(WWF)ロシア アムール支所 所長 保護区コーディネーター
主な顕彰・受賞歴
2004年 日本生態学会 第5回Ecological Research論文賞  “Network analysis of potential migration routes for Oriental White Storks (Ciconia boyciana)”
2006年 ロシア連邦天然資源・環境省 自然保護名誉ワーカー
2011年 WWFインターナショナル 優秀スタッフ・アワード
2012年 国際自然保護連合(IUCN)世界保護地域委員会 フレッド・パッカード・アワード(世界的な保護区管理に関する卓越した業績と革新的な貢献に対して)
2013年 ロシア大統領 ロシア名誉生態学者(アムールヒョウの保護と国立公園「ヒョウの森(Land of Leopard)」の設立に対して)
2016年 ロシア大統領 名誉ディプロマ(アムールトラの保護と国立公園「ビキン(Bikin)」の設立に対して)
関連ウェブサイト
バイオグラフィー