生物多様性みどり賞(国際賞) 「国際生物多様性年」であった2010年、イオン環境財団が
20周年を迎えたことを記念して「The Midori Prize for Biodiversity」
(生物多様性みどり賞)を創設しました。
「国際生物多様性年」であった2010年、イオン環境財団が20周年を迎えたことを記念して「The Midori Prize for Biodiversity」(生物多様性みどり賞)を創設しました。

第6回生物多様性みどり賞(The MIDORI Prize for Biodiversity 2020)受賞者

※受賞者のプロフィールは受賞当時のものとなります。

ポール・エベール (カナダ)

カナダ ゲルフ大学 統合生物学部教授

受賞のことば

イオン環境財団は、2010年に生物多様性みどり賞を設立、生物多様性条約の目標に賛同し、この目標に貢献した個人に対し、顕彰を行ってきました。岡田理事長より、2020年の受賞者として選出されたことをご連絡いただいたときは驚きましたが、大変光栄に存じます。過去のみどり賞受賞者の多くは、世界または地域レベルで、生物多様性への直接的な行動を通じて保全を推進してきた方々ですが、私の仕事には別の目標があります。それは、人類に科学的アプローチを提供し、あらゆる生物に関するデータ管理を迅速化し、地球規模での生物調査システムを実現することです。20年間に渡りこの目標を掲げ研究してきました。その間、研究協力機関「国際バーコード オブ ライフ(International Barcode of Life/iBOL)」には、多くを支えていただきました。「国際バーコード オブ ライフ」を代表して、この賞を受賞できることを大変光栄に存じます。

みどり賞には、象徴的な意味があり、私たち人類は、生物圏の一部であるという事実に立ち返らせてくれます。ここ数十年に渡る人口の急増は、様々な形で生物的な荒廃をもたらしています。今年は未知のウイルスが世界経済を打ち砕き、私たちの生活を一変させました。これは、私たちが地球上の生命について、まだほとんど分かっていないことを知らしめました。更に深刻な別の危機が迫ってきています。それは、この6,500万年の間で最も深刻な生物の大量絶滅に、我々は直面しているということです。人類は危機の際、莫大な資源を動員できることを、COVID-19は明らかにしました。この地球を共有する素晴らしい生物多様性が、人間のパンデミックによって破壊されぬよう、人類は真剣に取り組む必要があります。 生物多様性条約は、それを回避する上で、重要な役割を果たします。人類が自然をサポートするために、知識を深め、行動を起こせるよう、個人、組織、国を動かします。「国際バーコード オブ ライフ」はそれを支援します。

受賞者の功績

ポール・エベール氏は、ゲルフ大学の進化生物学者であり、分子生物多様性カナダ研究委員長と、生物多様性ゲノミクスセンターのディレクターを兼務する。クイーンズ大学で生物学の学士号を、ケンブリッジ大学で遺伝学の博士号を取得した後、シドニー大学でラザフォードフェローシップを取得した。その後ウィンザー大学で初めての教職に就く。

過去20年間に渡り、エベール氏は、「DNAバーコーディング」と呼ばれる革新的な手法の開発に焦点を当ててきた。これは、短く標準化された遺伝子領域の配列変異を利用して、種の同定と発見を迅速に行うものだ。彼の研究は、他の方法で行った場合困難な作業である「種の識別」を、シンプルな方法で行い、同時に種の年齢と系統的な近縁関係に関する重要な新しい情報を提供する。2003年にDNAバーコーディングの概念を提案して以来、エベール氏はその大規模なアプリケーションに必要となる研究インフラや協力体制の構築に注力した。2004年にカナダDNAバーコーディング・ネットワークを設立。さらにその運営やゲルフ大学に生物多様性遺伝子センターを設立するための必要資金を確保し、専用施設での研究から世界の生物多様性科学者に多くの情報を提供した。2010年には国際バーコード・オブ・ライフ コンソーシアムを設立、そこで科学ディレクターを務めた。現在では30か国以上の組織の協力を得て、2015年に最初の研究プログラムである「BARCODE 500K」を完成させた。50万種類に及ぶ、何百万個の標本のDNAバーコード情報を駆使し、世界のさまざまな分類群における生物多様性アセスメントを迅速に行う「DNAバーコーディング」の能力を示した。また、2つ目の主要なプロジェクトである「BIOSCAN」の計画を推進し、新しい分析アプローチを提案している。 2019年に開始され1億8,000万ドルをかけ7年間に及ぶこのプロジェクトは、生物多様性科学において、最大の研究努力が注がれている。コンピュータのハードウェア、デジタル画像、DNAシークエンシングにおける最新の技術を駆使し、20年以内にすべての多細胞種を登録する計画があり、それらの相互作用も明らかになってくるだろう。また、グローバルな生物学的調査システムを実現するために必要な科学的基盤を築き、その活動は、生物多様性保全における人類の力を大きく進歩させることが期待される。

DNAバーコーディングを推進するエベール氏の取り組みは、自然の価値を理解しようとする現代社会にとって、素晴らしい知識の贈り物である。生物多様性みどり賞を受賞したことで、この活動がより一層強化されることを期待する。