ヴァンダナ・シヴァ氏は、「アース・デモクラシー(大地の民主主義)」の理念に基づき、生物多様性を保全し、種苗を守り、農家の権利を保護する伝統的な有機農法の推進に生涯を捧げて取り組んできた。1990年代中頃以来、同氏は伝統的な知見と生計手段、持続可能な農業と生物多様性の保全、とりわけ、インドの女性、小規模農家、先住民および地域コミュニティといった、小規模コミュニティや社会的弱者のグループを支援してきた。シヴァ氏が創設した「ナウダーニャ(Navdanya)」は、インド18州にわたる種苗管理者と有機農産物生産者のネットワークであり、持続可能な農業や農業生態学的技術に関するトレーニングを実施する機関である。
ウッタラーカンド州にあるナウダーニャの農場では、2,300種以上の稲、小麦、大麦、オート麦、カラシ、キビ類、豆類、スパイス、野菜、薬用植物が保全されている。またこの実験農場では、革新的な農業生態系技術を発展させ、地域の資源や生物多様性研究に応用している。
2004年には、学習センター「地球大学(Earth University)」を設立。現在までにナウダーニャは、インド国内に122のコミュニティ・シード・バンクを設立、80万人以上の農業従事者に対し、種苗の保全、食料の主権、持続可能な農業に関するトレーニングを行ってきた。また、同国において最大の有機農産物のフェア・トレード市場の設立を支援してきた。
ナウダーニャにおいては、女性が重要な役割を果たしている。「多様性のための多様な女性達(Diverse Women for Diversity)」は、シヴァ氏によって1995年に始められた世界的なムーブメントである。このムーブメントは、種苗に関する女性のスキル、知識、生計手段、健全で伝統的な食料の加工を推進することで、女性を支援し、社会に利益をもたらすものである。
「希望の種(Seeds of Hope)」プロジェクトは、ナウダーニャの地方レベルでの活動の効果を物語る好事例である。2011-2015年、ウッタラーカンド州の農場でトレーニングを受けた486名の農業従事者(95%は女性)が、有機農法への転換によって55%の余剰生産をあげ、13のコミュニティ・シード・バンクを運営するに至った。これによって生物多様性は25%増加し、土壌の質は10%向上した。また、お祭り、マルシェ、情報交換などが行われ、生物多様性、食料の主権、種苗に対する農家の権利についての認識が高まった。さらに、ナウダーニャの生物多様性に基づく農業によって、食料安全保障と栄養とが向上した。1エーカー当りの栄養摂取と健康度を測定したところ、生物多様性を保全することで、インドの食料供給が2倍となることがわかった。また、1エーカー当りの富によって測定される真実原価計算によると、社会的弱者である小規模農家の収入が10倍に増加することがわかった。よって、彼女とナウダーニャの活動は、「持続可能な開発目標」の中でも目標1. 全ての場所における、あらゆる形態の貧困の解消、目標2. 飢餓の解消、食糧安全保障と栄養の向上の達成、持続可能な農業の促進、目標5. ジェンダー平等の達成、全ての女性および少女への権限と能力の付与、目標12. 持続可能な消費及び生産様式の確保、目標13. 気候変動及びその影響に対処するための緊急な行動、そして、生物多様性の損失の停止を含む目標15に貢献しているといえる。「希望の種」プロジェクトは、コミュニティの食の安全における女性の主導的な役割を大いに支援するものである。気候変動のメカニズムや問題点を理解し、消費者である市民の支援を得ることで、農業従事者は生産習慣を変えることができるのである。
またシヴァ氏は、作物栽培学・経済学の研究手法・知見に基づいて、国内外の政策に影響を与え、生物多様性、遺伝資源へのアクセスと利益配分、バイオセーフティに関する世界との対話にも貢献を果たしてきた。シヴァ氏は、インドの小規模農家と共に選択的な解決策を推進し展開してきた。また専門家として、生物多様性条約、インドの生物多様性法、植物の多様性と農家の権利に関する法、森林権利法に貢献を果たした。意欲的な政策に対する彼女の大きな影響力は、地球の生物多様性と人権を守るための世界的な協力関係をも形成している。
以上に述べたヴァンダナ・シヴァ氏の偉大な業績は、本賞の理念に一致している。よって彼女は、The MIDORI Prizeの受賞者にふさわしい人物である。