アムールヒョウを救う

ユーリー・ダーマン

世界自然保護基金(WWF)ロシア シニアアドバイザー
2016年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者

頂点捕食者の保護は、生物多様性保全において最も困難な課題の一つだ。頂点捕食動物は、十分な獲物を確保する広い生息域と、人間に干渉されず繁殖できる安全な場所を必要とするからだ。人間は、家畜への被害を恐れて、頂点捕食者を攻撃する。

写真:Vasily Solkin/ アムールヒョウ

アムールヒョウ(Panthera pardus orientalis)は、地球上で最も希少な大型ネコ科の一種である。2000年には絶滅の危機に瀕し、生息域は40分の1に縮小、ロシア、北朝鮮、中国の国境付近で30頭まで減少した。2001年ウラジオストクで開催された国際会議で、科学者は遺伝子プールを保存し、将来自然に返せるよう飼育下で繁殖させるため、ヒョウの捕獲を提案した。私はWWFロシア・アムール支部長として、野生最後の個体群の保全のため、あらゆる手を尽くすと主張した。WWFは包括的プログラム「全ての生存個体を救う」を開始し、非政府組織、研究機関、地域住民、政府担当者が一丸となって活動してきた。

まずは密猟を阻止するため、特別な密猟防止部隊を編成した。それ以上に重要であったのは、地元の狩猟クラブとの協力であった。それはヒョウの捕獲は誇るものではなく、犯罪であり不名誉であることをハンターに理解してもらうためだ。大規模コミュニケーションプログラムは、ヒョウの生息地域の18の学校を含み行われ、子供たちを通して、彼らの両親へと広がった。毎年のヒョウフェスティバル、創作活動のコンテスト、各村のヒョウの保護活動が「ヒョウの国」というスローガンの下実施され、人々の行動をゆっくりと変えていった。

しかし、連邦レベルで、統一の大規模特別保護地域を創設し、十分な法的権限、組織力、経済的安定を備えて初めて、ヒョウの個体数回復の長期的持続が可能になると私は信じていた。このような国立公園は緻密に計画されたが、省庁間の対立、地元企業の抵抗、陸軍や国境警備隊の妨害など、多くの問題があった。しかし、ロシア大統領府のトップであるセルゲイ・イワノフ氏が、すべての矛盾、問題を克服することを可能にした。こうして、私の長年の夢であった「ヒョウの国」国立公園は、2012年2,620平方キロメートルの土地に設立された。連邦政府の管理下におかれ、緩衝地帯と自然保護区「ケドロバヤ・パッド」と合わせると、この保護区はロシア極東のヒョウの生息地の70%をカバーしている。

現在、アムールヒョウは絶滅の危機を脱したと言える。2001年以来その数は3倍になり、年間20頭以上の子どものヒョウが登録され、その生息域は中国と北朝鮮近くまで広がっている。また、ヒョウの保護は生態系全体の回復にもつながった。同時期に減っていた白頭山トラの個体数は12~14頭だったのが、35~40頭に増加、ヒグマが森林に戻り、野生有蹄動物数は最大に達した。大型の肉食動物や地元のハンターが必要とする数には、十分であろう。国立公園では、ジャコウジカとゴラルが再び観測されるに至った。ロシアにとっては新種となる韓国の水鹿も、繁殖している。約400種の鳥類、2,000種以上の維管束植物など、その他多くの動植物が、ヒョウ保護プログラムの下繁栄している。

写真:Alexey Titov /「ヒョウの国」でモニタリングを行う ダーマン氏
ロシアにおけるアムールヒョウの個体数の推移

保護区のフレキシブルな形態として、国立公園は、急速に発展しているエコツーリズム活動の価値に加えて、地域住民の伝統的な自然の活用の継続を可能にしている。アムールヒョウとアムールトラの個体数の増加は、中国東北部のこれらの希少なネコ科の繁殖をサポートし、ロシアとの国境沿いに巨大な国立公園を設立するに至った。

私の次の夢と仕事は、中露国境を越えた自然保護区「The Land of Big Cats」を設立し、今後、本物の世界遺産に発展させることだ。

中露国境を越えた自然保護区「The Land of Big Cats」