海鳥とメキシコ島嶼~全てはつながっている~

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アルフォンソ・アギーレ=ムーニョス

「島嶼生態系保全グループ」名誉ディレクター・委員長
2016年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者

野生生物は、それぞれの環境に適応していく。動植物コミュニティとその周辺環境における、複雑で絶えず変化していく相互関係は、何百万年に渡り構築され、その重要な機能を果たしている。このような自然への理解は、世界各地の伝統文化に根付いている。偉大な博物学者であるアレクサンダー・フォン・フンボルトは、この体系的で複雑な思想を形式化し、現代の生態学の中心となる基礎を作った。フンボルトの豊かな展望と独創的な研究は、進化を探求するダーウィンを刺激し、「島々」が観察と発見の対象の中心となった。
海鳥は、海、空、島を結び付け世界をつなぎ、これらの複雑な生態学的相互作用がどのように世界を構成しているかを示す。海鳥、海、島は全てつながっている。

海鳥観察には神秘的な自由、芸術的な喜び、美学的な楽しみが伴い、海鳥への畏敬の念を覚えさせ、また、想像以上のことを教えてくれる。当然のことながら、バードウォッチングには古い歴史があり、古代エジプト、ギリシャ、ローマでは、予言のために鳥を観察した。「鳥を観察するもの(AugursまたはAuspices)」と呼ばれる専門家(鳥占官)は鳥の行動を解釈し、未来を予測した。

今日では、古代行われていた鳥の観察による卜占(ぼくせん)は科学の叡智となり、世界と人類の未来について情報提供する。このように、海鳥の多様性、個体群の動態、変遷の研究は、国境を越えて人類全体に影響を与える重要な問題について提起する。

メキシコ 太平洋 エスピリトゥ サント島
レイサン アルバトロス

例えば、地球温暖化、海面上昇、サンゴ島の完全喪失、津波に対する沿岸地域の脆弱性、化学物質による海洋汚染、海洋のプラスチック汚染、乱獲、島の生息地破壊などだ。健全な海と島にとって、海鳥は「炭鉱のカナリア」または「ブドウ園のバラ」のような役割を果たし、環境の状態について明確に伝えてくれる。

メキシコ島嶼の中でも、特に太平洋の島々は世界的に重要な海鳥の生息地であり、世界の種の総数(359)の3分の1にあたる108種が生息し、ニュージーランドに次ぎ世界第2位の海鳥の固有種数が確認されている。何百万年に渡り、海鳥は摂食、繁殖、休息、営巣をこれらの島々で行い繁栄してきた。
しかし、近代化と人間の存在は海鳥の犠牲を生み、捕食と生息地破壊は進んだ。その最大の要因は、故意または偶然に船員が島に持ち込んだ外来種の侵入であった。

例えば船のネズミ、ネコ、ヤギ、ヒツジなどだ。わずか数年でその侵入者は、固有種の完全な根絶、あるいは局地的な絶滅をもたらす。この問題は、例外なく世界中の島々で起きている。
過去20年間に渡り、メキシコの非営利団体「島嶼生態系保全グループ( Grupo de Ecologíay Conservaciónde Islas、AC)」は、島々の自然再生と、メキシコ海鳥の生息数を回復させるべく、政府と地域社会と連携し、包括的かつ長期的な保全を実施してきた。当初のミッションは、海鳥を襲う主な動物を取り除き、生息域の環境を変えることだった。これまでに39の島から61匹の外来哺乳類を駆逐し、250の海鳥の繁殖コロニーの生息数に改善が見られた。

メキシコ 太平洋 サン・ベニート・オステ島 人工巣のウミスズメ(Murrelet juvenile)
グアダルーペ島 科学者による保護活動

多くの場合、海鳥は一度絶滅しても、安全で清潔になった島には、何も施さずにも海鳥は戻ってくる。稀にだが、戻ってこない場合は、我々はコロニーを惹きつけるテクニックを使い、人工的に帰還を促す。例えば、デコイ(人工的なおとりのコロニー)を設置、鳥の鳴き声の放送、人工巣を配置し、親鳥の負担軽減、最初の繁殖を促すなどの取り組みだ。こうして、絶滅した27種の海鳥の個体数は以前の85%まで回復した。今後永続的な結果を出すため、植生群落と土壌の再生も行った。その他、外来種の侵入を防ぐため、バイオセキュリティプロトコルを作成した。

海鳥の繁殖数の回復には、人間の社会的側面からの取り組みもあった。我々は地元の漁師コミュニティに対して、環境学習の機会を提供した。また、現在メキシコのすべての島々は連邦の政令により保護されており、保全活動の成果が見られる。保全には、学術・政府機関との連携が不可欠だ。

グアダルーペ島 漁師コミュニティの子どもたち

「島嶼生態系保全グループ」は、バハ・カリフォルニア半島付近の太平洋、グアダルーペ島、カリフォルニア湾、レビジャヒヘド諸島、カリブ海、メキシコ湾など、多様性豊かな海洋域の島々で、海鳥の個体数の調査と監視を続けている。

最後に、海鳥が体現する地球規模のつながりに立ち返り、希望に満ちたエピローグで締めくくりたい。それは、太平洋を越えた「島々の姉妹関係」の概念を浮き彫りにするストーリーだ。メキシコのグアダルーペ島近くの小島、エル・サパトで2018年に生まれた若いコアホウドリが数カ月前日本の茨城県の海岸に現れた。このことが、山階鳥類研究所(千葉県我孫子市)の科学者によって確認された。それは、個体識別のため付けられたオレンジ色のリングにより明らかになった。このようなことが確認されたのは初めてだ。出生地から9,000km以上も離れた日本へのコアホウドリの壮大な飛行は、コロナ禍の私たちに希望を与えてくれた。特に日本とメキシコには、団結する機会を与え、今後の協業や責任を共有する力となるであろう。

写真提供:GECI / J.A. Soriano

グアダルーペ島 コアホウドリのコロニー