The MIDORI Prize for Biodiversity 2018授賞式と受賞者フォーラムを開催しました

2018年10月31日、The MIDORI Prize for Biodiversity 2018の授賞式が、東京パレスホテルで開催されました。

The MIDORI Prize は、公益財団法人イオン環境財団と国連環境計画・生物多様性条約事務局の共催による隔年開催の国際賞で、生物多様性の保全と持続可能な利用のための環境活動にグローバルなステージで貢献している個人を顕彰するものです。

2018年の受賞者は、キャシー・マッキノン氏(国際自然保護連合(IUCN)世界保護地域委員会(WCPA)議長/イギリス)、アサド・セルハル氏(レバノン自然保護協会(SPNL)事務局長/レバノン)、アブドゥル・ハミド・ザクリ氏(前マレーシア首相付科学顧問/マレーシア)の3名です。

受賞者には、イオン環境財団岡田卓也理事長より、木製楯、記念品、および生物多様性の保全活動推進を目的として副賞(10万USドル)が、それぞれ贈られました。本賞の共催者代表として、生物多様性条約事務局のパスカ・パーマー事務局長より、ビデオメッセージが届きました。また、後援者代表として環境省事務次官森本英香様より、祝辞をいただきました。その他、レバノン共和国駐日日本国特命全権大使ニダル・ヤヒヤー閣下にもご臨席を賜り、祝辞を頂戴いたしました。

受賞者フォーラム

授賞式に続き、「The MIDORI Prize for Biodiversity 2018受賞者フォーラム」が開催されました。
The MIDORI Prize 2018の受賞者3名による講演に続き、末吉竹二郎氏(イオン環境財団評議員、公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパン会長)をモデレーターとしてお迎えし、受賞者への質疑応答を行いました。

キャシー・マッキノン氏

国際自然保護連合(IUCN)世界保護地域委員会(WCPA)議長(イギリス)

講演テーマ:「保護地域:生物多様性の保全と人間福祉の基盤」

国際自然保護連合世界保護地域委員会は、保護地域に関する専門知識の世界的なネットワークです。特に、愛知ターゲットの目標11を達成すべく、日々活動を続けています。愛知ターゲットの目標11では、2020年までに、生物多様性と生態系サービスにとって重要な地域を中心に、陸域および内陸水域の少なくとも17%、沿岸域および海域の少なくとも10%を、効果的な保護区制度などにより保全することを掲げています。これらは2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標とも深く関連してきます。

国連環境計画では、今世紀末までに3度の気温上昇が見込まれる報告をしているように、気候変動対応や地球環境問題解決は急務とされている中、具体的に変革をもたらしている事例も、数多くあります。例えば、二酸化炭素貯留の10%を担っているアマゾン地域の保全活動団体の動き、コロンビアやパラオでの保護区の制定、あるいは南アフリカの「ワーキング・フォー・ウォーター・プログラム」などです。

保全活動をしていく中で、今我々に必要なことは「クリエイティブになる」ことです。生物多様性の保全と人間の福祉のために、私たちが一緒に成し遂げられることを想像してみてください。皆さんの一つ一つのアイデアを組み合わせると、自然とのつながりがもたらす多様な恩恵を、公平かつ包括的に体験できる世界の可能性が見えてきます。それは、普段の生活、労働、学び、余暇の活動の中で見つけられることです。そして、その自然を守る行動によって、自然、つまり地球へ、恩返しができるのです。一緒に行動し、世界を変える仲間になりましょう。

アサド・セルハル氏

レバノン自然保護協会(SPNL)事務局長(レバノン)

講演テーマ:「HIMA:ある一つの生活様式~平和へのミッション~」

レバノンは小さな国でありますが、典型的な地中海性の温暖な気候であり、渡り鳥の飛来数が世界2位という、重要なフライウェイ(渡りルート)に位置し、貴重な生物多様性を有する地域です。一方、その乱獲、密猟も絶えません。レバノン自然保護協会の目的は、レバノンの自然、鳥、生物多様性を人々のために保護し、HIMAを通して、自然資源の持続可能な利用を実現することです。

HIMAは、日本における里山のような、伝統的な地域主体の保全システムです。中東において1500年前に始まったシステムでしたが、ここ100年間、地政学的な問題があり、忘れられていました。私たちレバノンが先頭に立って、2004年に最初のHIMAの復活を果たし、これまでに22のHIMAを設立するに至りました。

重要なことは、HIMAのエンパワーメントを促進すること、ボトムアップ手法を尊重すること、そこに経済的なインセンティブを持たせることです。それには、HIMAの自然で作られた農作物資源を使った商品のブランド化など、民間セクターとの協業も必要となります。また人々、特に高齢化が進む中では若者に、地域のことを学んでもらい、地域の自然と共生した職業に就き、その土地に対する誇り、地元を守る意識を持ってもらうことが大切です。そのためには、地元での雇用を創出することがカギとなります。

まずは、皆で共通の未来の展望を持ち、その内容の分析が必要です。その結果、共通の目的が定まり、その展望を、政策、立法、実践に反映することで、展望の実現に向かうことが可能となります。

アブドゥル・ハミド・ザクリ氏

レバノン自然保護協会(SPNL)事務局長(レバノン)

テーマ:「生物多様性損失における政策―なぜ人は、違いを生み出すか」

本日お話しすることは、私の個人の物語でもあり、また同時に皆様それぞれの物語でもあります。地球上の生命全てに迫りつつある、地球規模の惨事に対して、私たちが「どう考え、行動するか」によって、どう状況を変えて行くことができるのか、という物語であります。私たち一人一人すべてが、当事者であります。

生物多様性の損失と生態系サービスの低下の問題は、最近始まったことではありません。1962年のレイチェル・カーソンの「沈黙の春」に見るように、以前より認識されており、国連人間環境会議、生物多様性条約等で、協議されてきています。一方で生物多様性保全2010年目標が達成されなかったように、世界はこの問題を解決できず、事態は深刻化しています。マレーシアでは、経済活動のために、熱帯雨林が急速に姿を消していっています。

その大きな要因は、人々の認識の欠如です。それを改善するには、我々は説得力を持ち、合理的で、分かりやすくなければなりません。また、「富や雇用創出」、「人間の幸福」は、「生物多様性」があって初めて成り立つことを示す必要があります。説得力のある「なぜ」が、人々を具体的な行動へ動かすカギとなります。ここで、生物多様性損失の深刻な影響について、他のステークホルダーの人々を納得させる科学者の助言には、3つの資質が問われます。信頼性、関連性、正当性です。ここに未来を変える人々の行動の違いが生まれます。

「もし、今日、人間が地球から一掃されても、明日も変わらず、鳥たちや木々は、そこにいるだろう。しかし、もし、今日鳥たちや木々が絶滅したら、明日人間は消えてしまうだろう」

最後にモデレーターの末吉竹二郎氏からのコメントで講演会が締めくくられました。

2015年のSDGsとパリ協定の成立によって、国家以外の主体に役割がシフトしつつあると感じています。

政策の在り方は重要でありますが、それを実行する民間セクター、市民社会等、私たち全員の役割が増してきています。ザクリ博士は、講演の中で、ネイティブアメリカンの言葉を紹介されていましたが、私からも一つ、ネイティブアメリカンの言葉をご紹介して、締めくくりたいと思います。

「最後の木が死に、最後の川が毒され、最後の魚を獲り終えた時に、人はようやく、お金は食べられないということに気づくのだ」