The MIDORI Prize for Biodiversity 2016 受賞者フォーラム開催

公益財団法人イオン環境財団は、生物多様性条約事務局との共催により、12月7日、東京の国際連合大学ウ・タント国際会議場において、「The MIDORI Prize for Biodiversity 2016 受賞者フォーラム」を開催しました。

フォーラムでは、The MIDORI Prize 2016の受賞者3名による講演と、末吉竹二郎氏(イオン環境財団評議員、国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)をモデレーターとする受賞者とのパネルディスカッション「脱炭素経済と生物多様性~パリ協定とSDGs(持続可能な開発目標)の狭間で考える~」が行われました。

受賞者講演 要旨

アルフォンソ・アギーレ=ムーニョス氏

島嶼(とうしょ)生態系保全グループ 事務局長 (メキシコ)

講演テーマ:「自然の回復:私たちの家である自然を慈しんで」

自然-それは私たちの共通の「家」ではないでしょうか。しかし私たちは、その「家」を破壊してきました。次代に引き継ぐべきこの「家」を回復することは私たちの急務です。

ではどのようにしてこの「家」を回復していくべきなのでしょうか。また、こうした回復活動を行うために、私たちが持つべき哲学とは?

ドストエフスキーは「カラマーゾフの兄弟」の中で、慈しみの心を持って自然へ赦しを請うこと、自己分析的な立場から課題を否定せず認めることが重要であると述べています。こうした良心ある態度こそ、他者や自然をいたわる自主的な活動を生み出すものであり、メガ・ダイバーシティの国メキシコにおいても大きな意味を持つものと私は考えています。

また、メキシコの作家オクタビオ・パスは、他者の違いを認めることが文化、対話、愛の表現であると述べており、私はこの態度が自然にも適用されるべきだと考えています。謙虚さと客観性を持って問題に取り組むことが、私たちの「家」を守ることになり、市民社会から社会を変えていくボトムアップ・アプローチにもつながっていくのではないでしょうか。

ユーリ・ダーマン氏

世界自然保護基金ロシア アムール支所 所長(ロシア)

講演テーマ:「エコリージョン・アプローチによる生物多様性の保全:アムール地域のケーススタディ」

アムール地域にはWWFが特定した5つのエコリージョンがあります。2 百万 km²という広大な面積を誇るアムール・エコリージョンの生態系は非常に多様で、象徴的な種としては、アムールトラ、モンゴルガゼル、タンチョウヅル、コウノトリ、チョウザメ等をあげることができます。こうした生物は人間の定めた国境を越えて生きているので、その保全のためには人間も国境を越えて協力していく必要があります。

WWFでは、具体的な方策として、リスク分析、社会経済的分析等、異なる視点で問題点を検証し分析結果を重ね合わせることで問題解決のプライオリティを特定しています。また、定点観測、保護区の創出、密猟の禁止・防止、国際拠点の開設、生息地のネットワーク化、国境に設置されたフェンスの開放により生物の移動を可能にするなど、様々な側面から国際的な保護活動を行ってきました。また、私が取り組んできたダム建設反対運動は気候変動とも関連が深く、ダムを建設せず環境適応するシステムを構築することで、生物多様性を守り二酸化炭素の排出を削減してきました。

こうした地道な活動に加え重要なのは政府の協力です。特に大統領府のサポートが非常に重要な役割を果たしています。最高位レベルの政府戦略に保全活動が組み込まれることの意義は大変大きいのです。

ヴァンダナ・シヴァ氏

ナウダーニャ 創設者・代表 (インド)

テーマ:「ナウダーニャの生物多様性の旅-アース・デモクラシー(大地の民主主義)を目指して」

私の生物多様性の旅は、ヒマラヤの森林を守るために木に抱きつくという非暴力的な活動、チプコ運動に参加することから始まりました。私は自身の専門分野であった量子論で、全てはつながっていて、自然と人間にも、敵と味方にも境界はないという生命の原則を学んでいましたから、そこに環境活動との共通点を見出せたのだと思います。生物は全て共存していて、地球は全ての生物の生息地なのだという視点は、農業にも通じています。

しかし近代農法においては、種子が発明され特許化されました。ですが、種子とは常に進化し続けている生命であり、人間の発明品ではありません。こうした近代農法により、人々は特許化された種子の購入のために借金を強いられ、遺伝子組み替えで種子の強靭性は失われました。農薬の乱用で破壊された土壌内の食物連鎖は海洋にも気候にも影響を及ぼしています。私は食の多様性と農家の権利を守るため、有機農法を推進するナウダーニャ運動を始めました。私たちが実践している有機農法とは、自然と共に生き、他者を尊重する「大地の民主主義」に基づいています。そして農業の生物多様性を守ることは、調和への道にも通じています。これこそ、私たちの地球の旅なのです。

パネルディスカッション

『脱炭素経済と生物多様性~パリ協定とSDGs(持続可能な開発目標)の狭間で考える~』要旨

モデレーター:末吉竹二郎氏

(イオン環境財団評議員、国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)

2015年9月「国連 持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」と、同年12月にCOP21で採択されたパリ協定。これらは共に、これからの国の在り方、ビジネス、個人のライフスタイル、社会そのものの在り方を大きく変えていくことになるものだと言われています。生物多様性と気候変動という密接に関わりあう二つの問題にどう取り組むべきなのかについて、討議が行われました。