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2014/12/26
インビオ: 新たなる飛躍に向けて- ロドリゴ・ガメス=ロボ

ロドリゴ・ガメス=ロボ博士

 私が2012年にThe MIDORI Prize for Biodiversityを受賞した後、インビオ(コスタリカ生物多様性研究所)もまた同様に様々な賞を受賞いたしました。以来インビオは、国内外の注目をさらに多く集めています。国内の人々が、国内の団体の意義や業績を十分に認識せず評価しないというのはよくあることで、これは国内の人々がそうした活動を毎日目の当たりにしているために、比較すべき点に気付かないからなのです。いまや生物多様性はコスタリカにおいて広く理解され、その重要性も認識されるようになりました。生物多様性の認識を高めること、これこそがインビオの使命なのです。

 

 設立から25年を経て、インビオは新たなる段階に入りました。政治面でも、財政面でも、環境面でも多くの変化があり、インビオへの国際的な資金協力は大きく減少しました。インビオの資金では、もはや巨大な生物学的コレクションを維持することができないため、これらはコスタリカ国立博物館へと移管されつつあります。またインビオのテーマパーク「インビオパーク」のリクリエーション活動や教育活動は、コスタリカ環境省によって継続される予定です。世界的・局部的な気候変動に対応するため、インビオは今後、その専門知識に基づいて、これまでの活動実績を戦略的に知見化し、情報管理に努めていくことになるでしょう。

 

 我々が直面している生物多様性の問題は、いまこそ生態系サービスの保全に着目すべき時機にあります。生態系サービスとは、生物多様性によって提供される基本的なサービスであり、人間の生存にかかせないものです。世界各国の専門家もこの手法の必要性を強く説いています。例えば、農業の形態を変える必要があります。なぜなら、私達は農業を土地利用と世界的な変動の主軸に据えていかねばならないからです。農業は「選択肢」ではありません。私達は食糧を生産しなくてはならないのです。しかしまた、私達は農業を環境に配慮した方法で実施しなければなりません。生物多様性の保全と農業は、合理的な方法に基づいて統合される必要があります。気候変動への脆弱性を軽減するため、農業を多様化する必要があるでしょう。私達は農業を、より回復力が高く、自然の生態系に備わった回復力を再現するものにしていく必要があります。食糧生産を多様化し、多元的な作付体系を用いることなど、食糧生産に関する新たな手法は、だからこそ必要なのです。

 

 水とは、気候変動に適応する新たなアプローチにおいて基本的で中心的な要素であり、このことについては一般にもよく理解されています。水とは生態系サービスの根幹をなすものです。それゆえに、「地域」という観点から、帯水層と水域は水が十分に利用できるものなのか、また食糧生産や発電が確実にできるのかを確認した上で、生物多様性を管理しなければならないのです。農業を実践する際には、水が有限の資源であることを考慮し、目的に応じた対策をとらねばなりません。熱帯地域では、水の利用可能性を確保するための対策の一環として、荒廃した土地や生産性の低い土地を修復する必要があるのです。また世界には、気候変動の影響を受け、極度の干ばつや洪水といった状況におかれている場所があります。中央アメリカは不運にも気候変動のホットスポットであり、極度の降雨が既に起こっています。農業生態系を含む生態系の適切な管理は、いまや不可欠です。生物多様性の合理的な管理に基づいた気候変動への適応を目標に、インビオは情報の提供や、政府・農業セクターの支援を行う立場にあります。

 

 世界的な気候変動や適応の必要性を理解しようというこうした取組や教育問題は、主要かつかけがえのないものであると考えられており、その重要性が高まっています。私達は社会をよりバイオリテラシーが高いものに変えていかねばなりません。それによって、私たちの教育活動を拡大させる必要性も生まれてきます。

 

 気候変動への適応という新たな問題の一環として、生物多様性という語を広い意味で用いた、新しく合理的な方法を見出す必要があります。そうした方法論としては、多くの水を必要としない植物、ペスト・コントロール(有害生物防除)が可能で疾病に強く、栄養が豊富な種の利用等があげられます。

 

 世界的な変動に関する大いなる挑戦の一つに、農業と保全の統合をあげることができます。前述のとおり、農業をより環境に配慮したものとし、また自然界における生物多様性の保全を農業ランドスケープにもとりいれなければなりません。コスタリカにおいては、保護地域の多くは面積が小さすぎるために気候変動に対応することができず、こうした場所に生息する種を保全するためには、「緑の回廊(生物回廊、バイオロジカル・コリドール)」等の方策を通して、保護地域とその周辺にある農地とを繋いで統合するよう、関係者に働きかけていかねばなりません。これこそ、私達が土地利用と境界管理という問題を、国家レベルから、地域レベル、農場レベルといった異なる視点でみるべきだと考えるきっかけになったものです。またインビオは、必要な政策決定を行う上で、こうしたプロセスを推進し、情報を提供するという役割を果たすことができるでしょう。

 

ロドリゴ・ガメス=ロボ博士

 国際協力という新たなトレンドによりもたらされた様々な変化の中に、世界経済危機によって引き起こされた変化があります。インビオはその影響を受けたために、生物多様性のテーマパーク「インビオパーク」を維持できない状況にあります。このテーマパークは、生物多様性教育とレクリエーションにおいて非常に重要な役割を果たしています。これまでに、コスタリカの全人口の4分の1に相当する150万人もの人々が同パークを訪れています。こうした成功の理由のひとつには、このパークが人と自然がふれあえる場を提供しているということがあげられます。インビオパークでは、訪問者がこれまでに見たことのなかった「自然のなかにある事象」をわかりやすい形で見ることができるのです。既にコスタリカ政府がインビオパークの資産を取得しており、コスタリカ環境省が同パークの教育プログラムと運営を実施していく予定です。インビオはインビオパークによって非常に貴重な経験を積むことができました。特に教育という観点では、前述の「バイオリテラシー」を推進するツールとしてその役割を果たすことができたのです。同パークにはコスタリカ全土から、子供たちを含め多くの人々に訪れていただき、このことは同パークに大きな力を与えてくれただけでなく、また同時に、同様のテーマパークの建設や保護区の設定の必要性を提示してくれました。同パークによる教育経験を活用したイニシアティブを展開することができれば、コスタリカ全土に「インビオパーク」や生物多様性の教育プログラムを広げることができると思います。インビオパークは、コスタリカにおいてバイオリテラシーを浸透させ続ける方法論のひとつといえるでしょう。また私達は、人々が自然に親しむ方法論として、市民科学の推進と生物多様性情報システムの利用にも取り組んでいます。

 

 こうしたこと全てが、コスタリカという国のありかたを形成する要因となっているのかもしれません。地球、そしてコスタリカのように熱帯に位置する国々の「生命の多様性」は、「様々な違いがあり多様な特性を持つ「個」は、共存し、相互に関係し、成長できる」ということを見事に示してくれました。持続可能で幸福な世界へと私たちを導くヒントとなる生命の多様性をアピールできれば、すばらしいことではないでしょうか。

 

 

※ロドリゴ・ガメス=ロボ博士が代表を務められるコスタリカ生物多様性研究所(インビオ)が平成26年度(第23回)ブループラネット賞を受賞。2014年11月、博士は表彰式典と受賞者記念講演会のため、東京に来訪されました。

 

(ロドリゴ・ガメス=ロボ、コスタリカ生物多様性研究所(インビオ) 代表、The MIDORI Prize 2012 受賞者)

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