平和への道 「HIMA」(アラビア語で「保護地域」の意)

アサド・セルハル

レバノン自然保護協会(SPNL) 事務局長
2018年 The MIDORI Prize for Biodiversity 受賞者

~行動は、“鳥”よりも雄弁なり~

*Actions speak louder than birds(words)の訳.

人々の環境問題への意識を高め、また、レバノンの保護地域(HIMA)を守ることを目的に、レバノン自然保護協会(SPNL)は、1984年に国の環境NGOとして設立された。当時のレバノンは政治が不安定で、協会は紛争解決のため、国や国民を団結させることにも寄与してきた。

天然資源の持続可能な利用を達成するため、土地、生物、生息地の保全、および伝統的かつ文化的なコミュニティを基礎としたアプローチを生み出すことが、「HIMA」の目的である。

また、持続可能というコンセプトを、地域社会で促進し、周知させることも重要な役割だ。SPNLは、狩猟、漁業、放牧、水資源の持続可能な利用の達成を試みており、さらに、地域コミュニティの強化、生活の向上、天然資源の持続可能な利用の促進に力を注いでいる。

写真:Asaad Saleh


「HIMA」で扱うハーブの数々

1996年に設立されたショウフシダー保護区は、レバノンで最大の自然保護区であり、国土の約5%を占めている。レバノン山の南半分で、約1000〜1980メートルの高度に位置しており、2019年にリタニ川当局の覚書が交わされ、ベッカー丘陵のアミク湿地とカラオン人工湖を含む保護地域となった。

MABA財団、スイス大使館、スイス開発協力庁、レバノン自然保護協会およびアルショウフシダー協会(ACS)が協力し、ショウフ山と西ベッカーのコミュニティを統合し、「HIMA」の領域を拡張した。 ショウフ生物圏保護区と西ベッカーHIMAが1つになり、双方の資源と20を超えるコミュニティを共有することになった。それはレバノン国土の6%以上で、5か所のKBAs(生物多様性の保全の鍵になる重要な地域)と、重要野鳥生息地(IBAs) が含まれる。

このショウフプロジェクトは、生態学的および社会経済的レジリエンスの構築に注力している。それは、環境文化的景観における、生態系の退化と生物多様性の喪失を拡大させている、人為的および気候変動の影響に対するレジリエンスと言える。科学的知識を向上させ、ショウフの環境文化的景観に関連する生物多様性指標に関するデータを収集することにより、自然と種の復元を支援している。

さらには、このプロジェクトは、生物多様性の保全と社会経済開発のためのグリーン成長、経済の多様化、基盤づくりに取り組んでいる。それは、ショウフの土地のアイデンティティとグリーン成長に基づいている。例えば、森林農業製品(薬用・アロマ・食用植物、蜂蜜)の生産や女性・若者のエンパワーメントにフォーカスしたサービス(エコツーリズム)などによるものだ。クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)からの全面的な支援を受けてこのプロジェクトは推進されている。

新しい世代の若ものたちが、プロジェクトの中心となり、保護区の将来と土地の保全を担っているため、ショウフの環境文化的景観の価値について、彼らに教育することが不可欠だ。環境意識が高く、土地に誇りを持つ世代を育てることが、自然の復元には重要である。

レバノン自然保護協会は、地域社会が保全に関わることの重要性を認識している。伝統的な「HIMA」のアプローチの復活には、自治体や地元の人々と連携が欠かせない。そのため、SPNLでは、地元の保全グループ(LCG)とホーマットアルHIMA(HIMAヤング ネイチャー ガーディアンズ)の設立を推進した。自然、種、資源を保護し、維持するために、彼らのエンパワーメントを推進・支援してきている。

責任ある狩猟を促進することは、レバノン自然保護協会の主な目標の1つであり、違法な狩猟の危険性の認識は、レバノン全体で周知されなければならない。現地ガイドと警備員、レバノン自然保護協会と狩猟中東センター(MECRH)により、教育された新世代の若い人々によって進められている。バードライフインターナショナル、MAVA、EU-Life、およびバードフェアなど各団体の協力も得ている。レバノンの国土は狭いが、少なくとも401種の野鳥が観測されている。鳥の種が多いことは、国の資源を増やすことになるが、一方で、保全に対する私たちの集団的責任が増すことを示す。ショウフシダー自然保護区では、世界的に絶滅の危機に瀕している鳥を含む160種以上の鳥が観測されている杉林が、良い状態で現存している。中には、カラフトワシ、カタジロワシ、ウズラクイナ、シリアセリンなどが含まれる。西ベッカーHIMAでは、春と秋に、コウノトリ、シロペリカン、ヒメコウモリなど31種の猛禽類を含む2万羽が沼地を渡る。

それぞれの「HIMA」には、熱心な若いグループが違法な狩猟を終わらせる活動をしており、地域の生態系を保全することを目的としている。

写真:Fouad Itani

「Moune」の知識は、何千年もの間、生き残るため手段であった。 「Moune」とは伝統的な食料品のことで、保存に優れてるという特徴がある。雪の多い地域や山での人間の生存に非常に重要だ。これらの伝統的な食文化を保護し、世代から世代へとその専門知識を引き継ぐことに我々は努めている。その活動の中心は女性である。彼女らに重要な役割を与えることにより、通常は仕事のない農村部に住んでいても、経済力を持つことを人々に可能とし、そこに利益、敬意が生まれる。さらには、代々母が子孫のために作ってきた、オーガニック製品「Moune」の典型的な生産方法の信頼を高めることにつながっている。

西ベッカーカントリークラブ、ホマットアルHIMAインターナショナルカンパニーとレバノン自然保護協会は、パートナーとなり、新しく公園を設立した。「バタフライ・ガーデン&HIMAインターナショナル・パーク」だ。オーガニック農法、ハーブ製品の開発をリードするコニュニティとして活動している。オーガニック製品はレバノンの土地と伝統の、常に中心にあるが、今、再活性化させ、強化する必要がある。我々が設立したギフトショップは、その専門知識を保護し、コミュニティを支援する。これはレバノンの文化を表すメッセージとも言える。ギフトショップには、地元の有機ワイン、オリーブオイル、花、バラ水、蜂蜜、松の実、「HIMA」関連書籍、ポスター、鳥の巣と餌箱などの、商品が揃う。これらは、レバノンの伝統を守り、また、それを失わずに進むための取り組みの1つだ。HIMAを完成させることは、環境、社会、経済の3つの輪の利益をそのコミュニティに生み出すことになる。

私たちの最終な目標は、人間と野生生物の平和のための「HIMA」を実現することだ。