キルムイジム森林保全と気候変動対策としての蜂蜜バリューチェーン(価値連鎖)の開発

ウィルシー・エマニュエル・ビニュイ 

環境活動団体「カメルーン ジェンダー・環境ウォッチ」 (CAMGEW)創設者
MIDORI Prize Winner 2020

はじめに

環境活動団体「カメルーン ジェンダー・環境ウォッチ (CAMGEW)」は、2007年10月に設立された非営利団体で、カメルーンの環境とジェンダー問題に取り組む活動をしている。「地球規模で考え、地域で行動しよう」をスローガンとして掲げ、環境とジェンダーの問題を同時に解決することを進めている。

キルムイジム森林地帯

キルムイジム森林地帯はバメンダ高原の一部で、カメルーン北西部に位置する。産地認定製品として「オク・ホワイトハニー」はこの地域で生産されている。

その広さは2万ヘクタールに及び、最高地点は標高3011mに達する。火口湖であるオク湖はこの地域に位置する。またキルム山は、カメルーン山に次いで、国内で2番目に高い山だ。オク・ホワイトハニー、キノコ、薬用植物、スパイスなど、木材ではない農産物が豊富な生態系を有する。オク・ホワイトハニーとペンジャホワイトペッパーは、カメルーン産として認められる2大農作物だ。蜂蜜の生産には、ヌクシア・コンゲスタ(Nuxia congesta)、プルヌス・アフリカーナ(Prunus africana)、シェフレア・アビシニア(Schefflera abyssinica)シェフレア・マンニ(Schefflera manni)などの木々が使用されている。これらの木々は、水辺の地域で良く育ち、絶滅危惧種に指定されているバナーマンズ・トゥラコ(Bannerman’s Turaco)などの鳥を迎い入れる。また、この地域にはニュートニア・カメルネンシス(Newtonia camerunensi)など、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに登録されている絶滅危惧種の木も自生している。

キルムイジム森林地帯におけるCAMGEWの活動

CAMGEW は2012年から2020年にかけて、キルムイジム森林地帯に8万7千本の植樹を行った。蜂が好む植物を植えており、8万本の苗木を育てる施設を3か所に開発した。
CAMGEW は1,388人の養蜂家を養成し、蜂蜜生産、品質管理、蜜蝋抽出に関する教育を行った。訓練を終えた養蜂家には1,354個の蜂箱が配布され、6つのオクホワイトハニー協同組合が組織化された。養蜂の教育を受けたもののうち、女性は約30%、若者は30%の割合だ。採取した蜂蜜を貨幣にするため、州都バメンダでCAMGEWの蜂蜜店が出店されている。蜂蜜、蜜蝋、キャンドル、養蜂スーツ、養蜂用燻煙器、蜂蜜ワイン、蜂蜜ジュース、蜂蜜石鹸、蜂蜜粉末石鹸、蜂蜜ボディローションなどを販売する。これまでに142名の女性と若者が、蜂蜜チェーン開発に関する起業家研修を受けた。

植樹のため苗を運ぶ人々
養蜂研修

またCAMGEWは、森林に関しての意見交換、意思決定を支援するために、2つの森林マルチステークホルダー・プラットフォームを設立した。地域社会による7つの森林管理機関が再編成され、772人の農民が森林農業技術研修を受けることができた。

自立生計支援

CAMGEWは、自立生計を支援する活動も行っている。1,580人の女性がビジネススキルの訓練を受け、1,325人の女性が経済的な融資支援を受けてきた(毎月総額5,500米ドル)。これらは森林地域に住む女性に対して、マイクロファイナンスの役割を果たしている。また、44人の10代の青少年は、プラスチックやアフリカのファブリックを再生利用し、宝石やバッグ、ベルトを作る職業訓練を、78人の10代の母親は、地元の食品加工の訓練を受けるなど、さまざまな教育支援が行われている。

山火事防止

山火事は2012年には7件あったが、2018年、2019年には1度も起きなかった。2014年に起きた1回の山火事では、約1,000ヘクタールの森林が破壊されていたが、 2017年の山火事の際は、養蜂家を中心とした地域住民70人以上が森に入り、火災を鎮め、5ヘクタール弱の焼失に留めることができた。養蜂家は自分の蜂の巣を失わないよう、連帯して山火事を防ぎ森林を守る。このように、養蜂=仕事=蜂蜜=収入=森林=保全と全てはつながっている。CAMGEWの蜂蜜店は、気候変動を引き起こす山火事の防止につながっているのだ。蜂蜜は、森林を守る行動に地域社会を巻き込むための手段となっている。

種の絶滅を避けるために

CAMGEW は、バメンダ高原とバンブータス地域の乾燥熱帯地域のみに生息しキルムイジム森林にも自生しているニュートニア・カメルネシス(Newtonia camerunensis) を 3,700 本植樹した。この種は、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。森林の人工育成は難しいと科学では言われているが、CAMGEWはこの植樹に成功した。また、キルムイジム森林は絶滅危惧種である赤い羽を持つ鳥「バナーマンズ・トゥラコ」の最大の生息地でもある。その羽は著名人、有名人の冠に使用することが伝統である。

 気候変動に泣かされる養蜂家たち

蜜蜂の生息地であるキルムイジム森林の年間降雨量は年々不規則になり、養蜂生産に大きく影響を与えている。2018年は、雨の時期が早かったため、花が少ない一方で木が育ち、蜂蜜生産が40%減った。花が少ないため、蜂蜜の収穫時期の決定が難しくなった。通常よりも早い4月中の収穫を決めたものは、通常の収穫時期である4月末や5月に収穫した養蜂家よりも、多く収穫できた。養蜂家にとって、今は気候変動への適応、それを緩和する行動が必須となる。また、養蜂家たちは養蜂の代替事業として、森林農業、オーガニックコーヒー栽培等の訓練も受けている。

進むべき道

母なる大地の未来は我々の手に委ねられている。「社会正義と環境正義を開発の中心に据えることで、この地球を持続させることができる」と私たちは信じている。