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草木染め

草木染め日本の伝統色は、数百にも及ぶと言われています。それは、この国の自然の豊かさ、生物の多様性の象徴とも言えるでしょう。

 

その美しい色彩を取り入れる方法として古来より用いられてきたのが、草木染めです。

 

草花を摘み、煮込むなどしてその色素を抽出し、絹や麻などの糸を染める。色を落ち着かせるために、鉄や銅などの鉱物の力を借りる。草木染めはまさに、自然界のさまざまな恵みが凝縮された芸術作品です。

 

日本で草木染めが始まったのは、今から千数百年も昔のことです。7世紀頃につくられた高松塚古墳(奈良県)では、極彩色の壁画が確認されています。「西壁女子群像」と呼ばれるこの壁画に描かれた女たちは、身分の違いが色彩によって描き分けられています。例えば、身分の比較的高い女子の服は、茜染め、それより身分の低い女性の服は黄色というように。

 

紅花は高価であったため、身分の高い人だけが身につけることを許されました。そして、紅花やを代用する染料として、蘇芳という熱帯地方原産の植物も、日本にもたらされました。美しい色彩を求める心が、異国の植物を日本へと招き寄せたのです。

 

平安時代には、異なる色合いの布を重ねて用いる「かさねの色目」という配色が取り入れられました。それぞれの季節にふさわしい色や模様を身につけることが美意識とされたこの時代。当時の人たちは、身に纏う色彩を見て、その人物の人となりや感性を推し量ったと言われます。源氏物語や枕草子といった作品に季節や色彩の描写が多いのも、なるほどと頷けます。

 

その後も時代の変遷に応じて、さまざまな色彩が、好んで取り入れられてきました。江戸時代には、染色の原材料や技本に関する書物が複数発行されています。

 

江戸後期になると、木綿が庶民の手にも入りやすくなったことから、藍染めが大流行しました。藍染めの藍は水に溶けないため、葉藍を乾燥・発酵させた「すくも」と呼ばれる原料を使います。その製法にもいかにも和を感じさせる藍色・紺色の色彩を見て、その昔、日本を訪れた外国人は「ジャパン・ブルー」と名付けたのだとか。

 

さて、染物の原料となる草木には、通常、庭や野山にある、季節の植物が用いられます。同じ植物を使っても、採る時期や、使う部位、そしてその年の気候や使用する水の状態などにより、染めの色合いは変わってきます。色との一期一会。それもまた、草木染めならではの趣といえるでしょう。

 

産業革命の時代に化学染料が発明されたことで、草木染めは次第に廃れていきました。けれども、近年、再びその価値を見直そうという動きが、各地で生まれています。

 

「絞り」や「型染め」によって模様をつけるのも、また、楽し。草木本来の色や香りに触れることで、作品への愛着もきっと高まることでしょう。染物の体験会に参加し、色彩に風土を感じる暮らしを、あなたも味わってみませんか。

 

 

(今井麻希子)

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